言葉が変化する条件とは。「ことばの地理学」

言語の変化ってどのくらいのスパンで、どういう条件で起こるんだろう?とちょっと疑問に思ったので、言語学の棚をごそごそしてみた。概要書とか無いのかよぅ…。
とりあえず読めそうな本を見つけたので借りてきてみた。これは日本の方言の変遷を研究している本。

ことばの地理学: 方言はなぜそこにあるのか
大修館書店
大西 拓一郎

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まず面白いなと思ったのが、言語は人の交流によって変化するという話。
当たり前なのだが、これが単純に「距離」ではないのだという。

たとえば船による交流の場合、「出発点」の言葉と「到着点」の言葉には交流が生まれるが、間の、船が素通りしてしまう地域には影響が全く無い。たとえば、オランダの船が持ち込んだ言葉が、間のアフリカやインドをすっ飛ばして、遠い日本に根付くようなものである。これは、陸路で移動した場合には起こらない。陸路の場合は必ず途中で現地の人との交流が発生するはずだからだ。

また、船で移動した場合も、生活必需品などを商う小売りの船だと言語の変遷が起きやすいのに、大型の商船からは言語があまり伝わらないという現象が起きるらしい。これは船が到着したあと現地の人たちとどの程度の交流が発生するかによるのだろう。交通手段や移動の目的が言語の変遷に関係するとは思ってなかったので、中々面白い視点だなと思った。

それと言語の変化は生産年齢の比率によっておきやすさが変わるらしい。生産年齢というのは年少者と高齢者を除いた、社会活動を活発に行う年齢層のこと。この世代が多くて人口密度が高いほど言語が変化しやすいらしい。つまり高齢者ばかりたくさんいても、言語は変化しない。逆に生産年齢の人口密度の高い都会では、農村部などより早く言語が変化していくことになる。

これは、複数集団が接触したときの言語の交雑速度は一定ではなく、集団の密度によってある程度変わることを意味しているので、古代の言語の研究をする人は注意したほうがいい点かもしれない。

「言語とは意思疎通のためのシステムである」というのも、なるほどと思った。
システムであるからには、より便利に、作り変えられ続けなければならない。シュメル語にこだわって書きづらいものを何千年も保管しようとしても書きやすい言語にどんどん取って代わられていった古代メソポタミアの例とか、システムではなく装飾用と割り切ることでヒエログリフによる格式ばった碑文を生きながらえさせた古代エジプトの例とか見ていても、やはり言語は時代に合わせて変わっていくのが自然なのだろうなと思う。

システムであるからには、ことばの構築は終わりなき作業なのだ。そう…ひたすらパッチ当ててモジュール足してツギハギしながら…うっ頭が。

この本のテーマは日本語の方言なので日本の中だけの話だったが、次回はもう少し広くアジア全般の本とか探してみようと思う。

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