石器作りの技法・押圧剥離(おうあつはくり)の資料。

押圧剥離とは、その名のとおり石器の元となる石に硬い道具を「押し当て」て、小さな剥片を剥がしとる石器作りの技術である。「押圧」によって「剥離」させることをさすのだから技術としては「押圧法」と呼ぶのが正しい、という意見もある。

この手法だと、石どうしを打ち当てて作る石器に比べると、細かくて精度の高い石器が作れる。さらに、石器の材料となる石をほとんど無駄にせず、ちびちび使える。ただし手先の器用さが求められる。当然ながら、この技術が登場するのはかなりあとの時代。

技術が発明されたのはアフリカだった、という説がある(下記参照)が、実はこれは正しくない。押圧で石器を作る方法は一つではなく、どの方法で作るかによって異なるからだ。

高度な石器作り、起源は欧州ではなく7万年前のアフリカ
2010年10月29日 17:37 発信地:ワシントンD.C./米国 [ 北米 米国 ]
http://www.afpbb.com/articles/-/2770569?pid=6384788


…というわけで、押圧で石器をつくる方法の資料を探していたら、いいのがあったんですよ!

http://www.yamagatamaibun.or.jp/H30/kiyou9_oba_2017.pdf

要約すると
「小さくて精密な石器の製法をぜんぶ押圧って分類すんのやめーや。どの方法で剥離するかで痕跡が異なるんで実際やってみたわ。作った方法と痕跡が一致するかどうかくらい見ろよな」
という資料である。ありがたい。

詳しくは資料を読んでねというところだが、図入りで諸方法が説明されている。
現在もイシ族が使っている「イシ・スティック」は有名。逆にそれ以外の作り方はちょっとマイナーというか、知らなかったものもあった。

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指サックを使った手持ち押圧や、錐のような道具を使って細かく成形する方法。
これられ以外にも、おそらく今ではもう失われてしまった各地方ローカルな作り方があっただろう、という。人間の発想すげえ。

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このテの資料を見ているとき、「よくこんな器用なことが出来るな…」と思うと同時に、「多分これ馴れても巧く出来ない人は出来ないだろうな」と考える。だってさ現代人の俺ら出来ないっスよ? 竹とんぼ作れる? 学校の図工の時間にやったけど、あんなもんよっぽど練習しないと巧くならへんで。

叩き割って大雑把に断面作ればいい旧石器までなら、たぶんヒト族なんとかなると思うんですよ。
でも押圧法使うあたりからもう、出来る人/出来ない人、あるいは、得意な人/不得意な人が出来てくる。「竹ひごで細かい細工作れるかどうか」って考えると、皆が上手に出来るわけじゃないでしょ。そういう難易度だと思うんだ。

で、集団で生きることが強みとなるのは、この「出来る/出来ない」「得意/不得意」を群れの内部で補える場合。
人間が群れで生きる時、その群れの中に石器作るのめっちゃ上手い奴がいて、そいつの作った石器で他の人が狩りとか皮なめしとか代わりにやるとしたら、役割分担が自然と出来ていくわけですよね。

そうすると、より高度かつ重要な役割を専門で行う人ほど重要視されるはずで、役割分担から階層社会の入り口へと進んでいくと予想される。


石器作りに見る高度な技術の発展は、人間の群れが階層化していく入り口だったんじゃないかなと思う次第。

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