専門家がガチで作った本格同人誌「古代エジプトの動物要語の語源つれづれ」

初心者向けと称することで内容の薄いのを誤魔化したエジプト本ばかり出版されて、しばらく邦語のエジプト本から遠ざかっていたのだが、久し振りにパンチの効いた本が出ていた。考古学者というより語学寄りの人が出した本で、「つれづれ」のタイトルどおり内容はメモ書きを集めたような構成になっている。そして読み手のレベルをあまり想定せずに最初からアクセル踏んだまま突っ走っている。

そのせいか、「手間暇かけてガチで作った本格同人誌」という雰囲気が滲み出ている本になっている。

古代エジプトの動物 要語の語源つれづれ
株式会社 弥呂久
2018-11-15
長谷川 蹇

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ここの出版社はエジプト本をメインで出していて、しかも内容が大量に売れることよりコアな読者むけに設定してくることが多いので、エジプトマニアが手に取るとほぼハズレがない。

ただし原稿チェックは甘く、誤字脱字は多い。
今回の本も、わりと誤字脱字が多く、それもまた同人誌っぽさをかもし出す原因となっている。とはいえ、本編には手抜きが無い。

何の本だか判りづらいのはタイトルのせいだろうが、これは「古代エジプトの動物」と「要語の語源つれづれ」の2つから成っている。古代エジプトの動物はどういうものだったのか。「エジプト」や「ナイル河」といった要語の語源は本当に言われているとおりの内容なのか。といったものを検討している本である。

たとえば「エジプト」の語源がギリシャ語のアイギュプトスで、その元はメンフィスの町の古名「ヘト・カー・プタハ」である、なんていうのは色んなエジプト本に出てくる内容であり、それだけなら皆、知ってると思う。が、実際にその語が使われている例をいちいち引いてきたり、それ以外の別説も紹介したりと語源を丁寧に検証している本は他に診たことが無い。ていうかそこまで気にするのは語学を研究している学者くらいだろう。

そうした細かいところを、ひたすら細かく追いかけている「同人誌」なので、内容はやたら濃い。

というわけで、エジプトマニアならぜひ「買い」な本なのだが、この本の使い方としては、書かれているソースを元に自分で再検証してみる、ということだと思う。たとえば、結論を出していない章があること。また、調べたソースは書いてあるものの、範囲がエジプト語/ギリシャ語/アラビア語 であることが多く、ペルシャ語がスコープに入ってないところが多い…など。

「つれづれ」に情報をまとめた本なので、丸暗記するというよりは足がかりにして考えてみる道具、という感じ。
古代エジプト本でよく出てくる単語や、古代エジプト人が動物たちをどう表現したかなど、他では見られない一種独特な情報が集まっているので、興味があればとても楽しく読める本だと思う。



なお、ひとつ難を言えば、著者がちょいちょい各章末に挟んでくる日記みたいな感想文や、テレビで放映されるエジプト番組に対する愚痴などが面倒くさい。非常に同人誌のあとがきっぽい雰囲気で、好き嫌いは分かれるだろう。

というか都会人らしく、野生動物に夢見すぎで現実を知らんところはいただけないなと田舎もんの私などは思う次第。
たとえばニホンカモシカは天然記念物だけど、害獣なので場所によっては一定数までは駆除対象だということとか…。鹿って木の皮まで食っちゃうから山が荒れる原因作ってるんやで…。
天然記念物のかわいいカモシカを狩ってしまう人間ひどい! じゃなくて、山や畑を守ろうとしている地元の人の意見が正しい。ご自分の専門はぐうの音も出ないほど詳しいのに、専門外のジャンルについてはだいぶイイ加減に書いてたりするギャップもなかなか面白い。ツイッターなんかでたまに大炎上してる大学教授とかと同じ雰囲気…。

あと古代エジプト人がヒョウやチーターの毛皮を利用し、大量のライオンを狩ったという記録を残しているからといって、べつに現代人ほど殺してはいないと思うんだが。だって古代エジプトの記録って古王国から末期王朝までで考えてもトータル2,000年分なわけですよ。2,000年で狩った総数が多いって言われても根拠が薄い。この本は資料集めはしてくれているが全編通して「トータル数いくらのうち幾つが○○だった」のような統計的な換算が抜け落ちている。書いてる人の傾向なのだろう。

そこらへんの足りなさそうな部分を埋めていくのも読み方の一つかなと思う。

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