聖書に関する遺物の値上がりと、その裏にあるグレーな事情

ちょうど今月のナショジオで聖書に関連する遺物のブームを特集していたところに、クムラン洞窟の新たな発掘のニュースを見つけたのでついでにメモしておこうと思う。

通販サイト
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/mag/18/112200019/


「古代の聖書を探せ」
現在の聖書の内容は原本と同じなのか? さまざまな陰謀が渦巻く世界で、古代の聖書を探し求める人々を追った。

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いま、コレクターの間で世界的に古い聖書が"値上がり"しているという。
古遺物市場も需要と供給の存在するマーケットなので、ほしがる人がいれば当然、値上がりはする。そして、鑑定の難しい市場だけに偽物も多く存在する。

ちなみに、記事の中にも出てくるワシントンの聖書博物館では、最近、展示されていた死海で発見された断片の一部に偽物があったと発表している。

アメリカの聖書博物館に展示されていた死海文書の一部、偽物の可能性が高いと判明
https://55096962.seesaa.net/article/201810article_22.html


そんな中での、この記事である。

死海文書と呼ばれる、初期のキリスト教徒たちが書いて隠した古い聖書関連文書が見つかった同じ地域で、新たに2つの洞窟の発掘が行われているという。洞窟の番号が53b、53cと書かれているので、ナショジオの記事の最後に出てくる「クムランの53号洞窟」と同一だろう。

Archaeologists Are Looking for Dead Sea Scrolls Inside 2 Newfound Qumran Caves
https://www.livescience.com/64200-dead-sea-scrolls-caves-discovered.html

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もちろん盗掘される前に調査するのは正しい、と思うのだが、ニュースを細かく追ってみると、どうも最近この地域の発掘に不自然に支援が集まっているような気がしている。新たな発見を望む資産家などが一定数関わっていると思う。

そして、そもそもこの地域はヨルダンとの係争地なので、ユネスコのルールでは発掘を慎むべき場所だったりするのだ。

文部科学省のページより日本語訳
http://www.mext.go.jp/unesco/009/1387048.htm

"VI 占領地域における発掘

32 武力紛争時において、他国の領域を占領する加盟国は、被占領域内で、考古学的発掘を行なうことを慎しむべきである。偶然による、なかんずく、軍事作業の際になされた発見の場合、占領国は、これらの発見物を保護するため、できる限りの手段を講じなければならないし、戦争状態の終結の際、すべての関係記録とともにそれまでの被占領地域の権限ある当局に引渡すべきである。"


この件については、以前この記事でも少し書いた。

死海文書の眠る12番目の洞窟が見つかったよ、というニュースが判りづらかったので補足する
https://55096962.seesaa.net/article/201702article_12.html


「偶然による、なかんずく、軍事作業の際になされた発見の場合、占領国は、これらの発見物を保護するため、できる限りの手段を講じなければならない」とはあるが、今回のとかは完全に意図して発掘してるので「いやおま、そこは誰かツッコめよ」という感じ。でも掘ってるのがイスラエルさんだからね! そして発掘されたものをばんばん買い取って展示してるのがアメリカさんだからね!! 

利害の関係から、あえてヨルダンの味方する有力者はいない。
力関係で負けてる国の声は聞こえない、何が正しいかで決まるのではなく何を正しいことにするかで世の中の論調は決まる。そういうもんである。



この聖書ブームの裏には、キリスト教徒(ユダヤ教徒も)の、古くて新しい議論「聖書の内容は真実か」というアイデンティティの揺らぎのようなものがあるという。聖書の内容が歴史的事実なのか、あるいは歴史的事実が含まれているのか。ユダヤ教徒は神の言葉が最初から一貫して同じであることを証明したいし、イエスの生きた時代により近い内容のものが見つかれば嬉しい。

傍目に見ていると「といっても古文書なんて人間が書いたものだし、別にそれ何の証拠にもならないんじゃ…」と思うのだが、そう割り切ることも出来ないらしい。

そして、そのコレクター心理につけこんで、多数の盗掘貧や偽の遺物が市場に出回っているというのが現状なので、目も当てられない。


新たな遺物が見つかると考古学ファンは喜ぶが、その裏には決して手放しに喜べない事情もあるということ、人々の興味が、盗掘・密売のような違法行為や、学問の名を盾にしたグレーな発掘調査を助長することもあるという現実は、認識しておいてもいいと思うのだ。

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