インダス文字は、実は文字ではなく記号かもしれない。という説がある

インダス文字は、実は文字か記号か判ってない。

というと「えっ」みたいな顔されることがあるけど、最近ではわりとこの説が盛り上がっている。文字に見えるけど文字じゃない? どういうことなのか。
例えば、〒という記号は郵便という意味だけど、それ自体に読み方があるわけではないし、文字では無いことが判ると思う。
同じようにインダス文字も、一つ一つの記号に意味はあったけど、文章として理解出来ない可能性がある。ということを言いたい。

この説が出てきたそもそものキッカケは、「インダス文字で書かれた"文章"が今まで一つも見つかっていない」というところにある。そう、印章に書かれたほんの十文字くらいの短い繋がりがせいぜいで、数行程度のものすら見つからない。なので、文字に見えるけれど文字として使われたことがないのでは? あるいは、記号から文字に発展する途中で力尽きたのでは? とも考えられる。

例えば、「▽」=牛 「▲」=ヤギ 「○」=鶏
という決まりがあり、数を「*」=10 「・」=1 であらわすとする。

牛10頭は「▽*」であらわすことが出来る。

これに、山を +^+ として、山の南側の村を +^+ ↓ 、北側の村を +^+ ↑ で表現する。

山の南の村からもってきた牛10頭は +^+ ↓▽*
山の北の村からもってきたヤギ8頭は +^+ ↑▲・・・・・・・・

このように、文字ではなく記号でも、共通ルールさえあれば伝えたいことは伝わる。
ただし、意味は通じても文章にはなっていない。


この説がアリだなと思う理由は、メソポタミアで使われ始める楔形文字も、エジプトのヒエログリフも、最初は同じように単なる記号からスタートしているからだ。
メソポタミアの場合、初期の文字の原型が家畜の計算など商業用途から発達したとも考えられている。楔形文字は記号から文字へと進化していったが、インダス文字は「文字」へと進化する過程で放棄されてしまったのではないかと思う。

そしてもう一つ、インダス文明の担い手は、現代のインドと同じく複数民族・複数言語の使い手から成り立っていた可能性があるということ。
文化も言葉も違う人々が互いに交易しようとした時に何が必要かというと、簡単に使える共通の「お約束」だ。インダス文明期には、アフガニスタン~パキスタン~インド、さらに海を越えてメソポタミア方面まで広範囲な交易網が繋がっていたことがすでに明らかになっている。当然、言葉がよく通じない人たちとの取り引きだって発生する。そんな中で必要なのは、身分を証明できるパスポートのようなものや、手形などだ。インダス文字が使われている遺物に印章や身につけられるメダルのようなものが多いことはこの状況に一致する。

インダス文字が多民族・多言語の地域で共通して使われるお約束の「記号」として誕生し、文字に進化する前に系譜が途切れたのだとすると、長い文章が見つからないのは当然だし、意味はあっても読み方が決まっているわけではないので、将来、「解読」される日はこないかもしれない。


もっとも、最終的に「文字」に進化した可能性もあり、これからインダス文字で書かれた文章が見つかる可能性もいまはまだあるわけなので、文章が見つかれば、この議論は意味をなさなくなる。今は一つの可能性として、「文字だと頭から決め付けるのではなく、文字の形だけで意味をもたせてた」という選択肢も考えに残しておいたほうがいいと思う。

あと、もしかしたら地域差があるかもしれないってことも。
インダス文字の使われていた範囲が広範囲すぎて、その中で全く同一のルールが固定されていたとは限らない。特定の地域出身者しか使わない文字セットがあったり、地方独自のルールがあったりするかもしれないからだ。解読にスパコンやAIを使えばどうにかなるじゃんって話はあるけど、そもそも入力する前提条件間違えてたら意味のある答え出てこないからね。


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…という話を、この本読み返して思い出したので書いておく。

インダス 南アジア基層世界を探る (環境人間学と地域)
京都大学学術出版会
長田 俊樹

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あと昔書いたけど、メソポタミアと交易していたのだから、もしインダス文字が記号ではなく「文字」であったのなら、楔形文字との併記がされたロゼッタ・ストーンのような品は絶対出てくるはずだと思うんだ。今後も出てこないんなら、文字として使用できる状態まで発展してなかった可能性をより強く示唆するのではないかと。


インダス文字解読に必要な2つの必須条件「言語の種類」「他言語との対比」
https://55096962.seesaa.net/article/201808article_11.html

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