ベネズエラの大停電から学ぶ、インフラのメンテナンスの大事さ

「インフラ」という言葉は、日本語に直すと「基盤」である。いろんなところに使われる言葉で、たとえば「生活インフラ」という意味だと生活基盤、つまり水とか電気とかガスとかテレビ電波などを指す。「交通インフラ」だと道路とかガソリンスタンドとか信号とかになる。
「ITインフラ」だと、インターネットが繋がるとかメールが送れるとかの機能の物理的な部分を指す。

つまりそれぞれ、「あるのが当然」「それが無いと話が始まらない」という基礎の部分を指していて、あって当たり前ゆえにどのように維持されているのかが、それに関わる職業の人でなければ良く分からない。

だからこそ軽視されがちなのだが…


・インフラは、メンテすることで安定稼働が可能になる

・軽微な問題を放置していると合わせ技で深刻な問題に成長することが多い

・物理的な設備である以上、いつかは老朽化するのでその前に取り換えなければならない



これはすべてのインフラに対して言えるのだが、意外と理解されていないことが多い。
「いま動いてるんだからお金かける必要ないでしょー? なんでそんなに予算とるの」とか言い出す人はどこにでもいる…。
でもお金をかけてメンテしないと必ず何かトラブルが起きるものだし、問題を先延ばしにしてもいいことないし、老朽化する前に新しいものに入れ替えないと、 いつか 必ず 止まる。
そう、「必ず」。

普段は勝手に動いてる、あるのが当たり前のものが老朽化でぶっ壊れるとどうなるか。
生活インフラなら、停電とか断水とかが発生する。
交通インフラなら、電車も自動車もない世界になる。
ITインフラなら、ネット繋がらない電話通じない状況になる。

そしてインフラは物理である以上、老朽化による限界や破損が生じた場合は、一瞬では直せないんである…。




インフラで起きる障害は、以下のような特徴がある。

・何かトラブルが起きた時の対処手順や復旧には知識や経験が必要となる

・重大なインシデントを「起こさない」ことが重要

・設備が壊れた場合の復旧には時間がかかる

・インフラは互いに関連していることが多く、一部が故障すると連鎖的に停止するケースが多い(例:停電する→ガソリンスタンドの営業が停止、信号が消える→交通インフラ死亡)



要するに、停止するほどのトラブルが起きた時点で、もうだいぶヤバい状況だと思ってほしい。

日本で大地震が起きて橋が落ちたり停電した時のことや、回線会社のトラブルで携帯電話が一切繋がらなくなった時のことを思い出せば、どれだけ生活に影響が出て困るか判るはずだ。

しかし日本の場合ほとんどの場合において、大規模なトラブルが起きても、すぐに復旧できるだけの資材と技術者が供給されていた。
だからどんなに深刻なインフラの障害であっても、なんとかなってきたのである。



…え? 資材も技術者も足りなかったらどうなるのかって?


それを今まさに見せてくれている国がある。ベネズエラだ。






というわけで前置きがだいぶ長くなってしまったが、現在ベネズエラで起きている大停電、つまり生活インフラ停止の話をしたい。


ベネズエラの大停電、100時間超 「国家警戒態勢」に
https://www.asahi.com/articles/ASM3D2104M3DUHBI006.html

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ベネズエラ、大規模停電続く 病院での死者相次ぐ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO4228592011032019000000/

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なんでこんなことになったかというと、国内最大の水力発電施設であるグリのダムが故障したからだ。

グリ・ダムの公式ページ
https://www.venezuelatuya.com/guayana/gurieng.htm

日本語でのデータページ
http://jcold.or.jp/j/dam/dam_l_america/dam_venezuela/

"(2) ダムの概要

ベネズエラ・ボリバル共和国の全ダム数は76ダムである。全ダムが高さ15m以上であり、その36%は高さ30m未満である。また、全ダムの82%はアースダムである。

この国の水力による発電出力は17,266MWである。

この国では1960年から1990年までの30年間に57ダムが竣工しており、1990年以降の建設は8ダムと少ない。

(3) 代表的ダム

最大のダム高さは1986年完成のGURIダムで162m、堤頂長7,426mの重力式・ロックフィル・アースの複合ダムであり、その総貯水容量は1,350億m3である。なお、このダムは10,000MWの発電に利用されている。2番目は2005年完成のYACAMBUダムで高さ158m、堤頂長115m、総貯水容量4.61億m3のロックフィル・重力式の複合ダムである。
"



そして実はこのダムに連結されている発電所、日本が受注して一部建設している。
http://toshiba-mirai-kagakukan.jp/learn/history/ichigoki/1984powerplant/index_j.htm

"このグリⅡ発電所の水力発電機は最大容量が805MVAという巨大な発電機で、かつ10台という大きなプロジェクトであった。その入札が発表されたとき、単独ではリスクが大きいため数社がグループを組んで応札することとなった。

当社は、日本3社(東芝、日立、三菱)と西独(シーメンス社)よりなる日本西独グループのリーダーとして、過去の実績が豊富な空気冷却案を提案した。これに対して、競合する欧米グループは直接水冷却案を提案した。客先は、この両案を比較検討して、コスト的にも性能的にも有利な空気冷却案を採用することに決定したが、リスク軽減のため5台ずつ日本西独グループとカナダグループの2グループに分割発注した。"


今回故障したのは、おそらくこの設備のどこかである。
原因や故障個所については、まだはっきりしたことは判っていない。ただ、過去にこのダムで働いていた人やダム技術者などが出している情報では、どれも「システムのメンテやってなかった」ということに触れられている。
つまり、

メンテしてなかったのでトラブった→トラブルに対応できる技術者がいなかった→素人が復旧失敗して余計に悪化→政府はアメリカの陰謀だー!と騒いでいる<イマココ>

という、全然笑えない最悪の状況のようなのである…。


How did this blackout begin? What started the event?
https://www.caracaschronicles.com/2019/03/10/nationwide-blackout-in-venezuela-faq/

Venezuelan President Nicolas Maduro says power recovery will come 'little by little'
https://edition.cnn.com/2019/03/11/americas/venezuela-guaido-maduro-blackout/index.html


まず、変電設備で火災があり、ダムからの送電機能がうまく働かなくなったという事実がある。
それに対し、変電施設付近の草刈りを怠って火災が発生したのでは、というのは、この段階では単なる憶測にすぎない。それは原因ではないかもしれないが、そんなショボいミスさえ「起きうる」と考えられていること自体が問題なのだ。

真の問題は、トラブルが発生したあとに適切な方法で復旧作業が行われなかった、ということである。
それを行える技術者が、実は既にベネズエラにはいないという事実。

これは、記事を書いている時点で既に四日以上、停電が続いていることから証明可能である。
いくつかの記事を読むと、ダムの高度な技術者たちは薄給と圧制のために既に多くが国を去ったこと、メンテが不十分でこのままでは停電になると進言しただけで拘束されたといった話が出てくる。現在ベネズエラからの難民は340万人を突破し、隣国ペルーには70万人が逃げ込んだという。

ベネズエラの失策の一つが、政権批判をする者を片っ端から追い出していったことにある。真っ先に国外に逃げざるを得なかったのは医者やエンジニアなど高度な技術をもつ人々であった。それらの人々がいなければ、トラブルが起きたとき何も出来ないというのに…。

そして、水力発電に頼り切って、もしもの時のための余力を持たなかったのも問題である。
水力発電は雨が少ないと発電量が減る。実際ベネズエラは過去に何度も深刻な渇水による停電を経験してきていた。そのたびに火力発電を併設することが論じられてきたのに、「まぁ今はなんとかなってるしいーや」と先送りにし続けてきたのである。そしてメイン水力発電が止まってこの状態。

この件を、アメリカの陰謀だと騒ぐ人がいる。

しかし、もし「仮に」アメリカの仕業でグリのダムが故障したのだとしても、そこから復旧できず、停電しっぱなしなのは、今まで何ら停電に対するセーフティの策を講じてこなかったベネズエラ政府の責任なのは間違いない。もしインフラにきちんと投資して、何かトラブルが起きても対処可能な技術者を揃えていたのなら、あるいはもしもの時のための余剰電力を持てていたら、停電からの復旧は出来たはずなのだから。

ちなみにベネズエラは、今回の停電前にも何度も発電設備のトラブルや水不足による水力発電停止での電力不足を引き起こしてきた。そのたびに、その場しのぎの解決策しか出してこなかった。↓こんなんもう笑うしかない

ベネズエラ:1週間休日に-電力不足に対応しイースターの祝日増やす
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-03-17/O45TY46S972901

なんで余力があるうちに、もっと根本的な対策を打たへんかったんやと小一時間。小一時間どころじゃなく問い詰めたい。問い詰めても馬耳東風っぽいのが悲しいところだけれど。




さて、インフラのメンテと、インフラに対する投資、インフラ技術者の重要性が分かっていただけたかと思う。

中の人の仕事はITインフラの構築設計や維持である。インフラなんて使えて当たり前、トラブルが起きた日には吊るしあげられるという職業である。

でもね、ITインフラの運用コストが高いなんて言ってケチってるとね、ある日とつぜん、ぶっ壊れてどうしようもなくなる日が来るんですよ。その時、御社内に対応できる人はいますか? いたとしても物理的に壊れてたらすぐには治せないですよ? 一日メール使えなかったら仕事になりますか。取引先のデータが吹っ飛んだらどうなりますか。ITインフラに投資するってのは、そういうことが起きないようにするために必要なんです。

これは電気でも水道でも道路でも、他のインフラすべてそう。「何か起きてから」では遅いし、「何か起きないために」日々コストはかかり続ける。それでも、無くなったらどれだけ困るかを考えれば、コストはかけるべきだと判るはず。


 だからどうか インフラ技術者を買いたたかないでください

 あと「まだ動いてるからいいじゃん」とかリプレイスを先延ばしにしないでください


インフラ投資を怠るとどうなるか、ベネズエラの惨状を見てぜひ教訓としてもらいたいです。




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ベネズエラのニュースを追い始めたのは、元々は旅行に行く予定だったのにブラジルとの国境がいつ封鎖されるか分からん状況で、この国の政治どないなっとんねん…とかブツブツ言いながら調べ始めたのが切っ掛けだった。
しかしあまりに波乱万丈、そしてムチャクチャな政治手腕に気が付けば真顔でウォッチするようになっていた。
というか現地で見た状況は、デノミ直後だったこともあり、「あっこれ来年はもう来るのは無理だな…」と思うようなものだった。

それから一年もせずにこの状況。笑えない。
南米随一の優良国家が、政治手腕がダメな首相が二人続いた結果、たった数十年でここまでズタボロになったという、歴史の教科書にのせていいくらいの事例だと思います…。

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