「日本人は草食なので欧米人より腸が長い」の嘘と実際/データを調べてみた
お疲れ様です、中の人です。
なぜか最近、大腸菌の話とか大腸の話とか調べることが多くてなんでやねんという感じです。いや、ほんとになんでやねん。
というわけで、今日は「日本人は欧米人より腸が長い」というデマについての反証と実際を調べてみた。
うん、まぁデマなんだ。なぜか信じてる人が多いけど。
ただ、「デマなんだよ」だけではつまらんので、じゃあ実際はどうなのか、というところを調べてみた。いい論文があるんですよね、どんぴしゃなやつが。
日本人とアメリカ人の大腸の長さは違うのか?―大腸 3D-CT(仮想内視鏡)による 1,300 名の検討―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/55/3/
結論だけ書くと
●文化圏ごとの腸の長さに違いはない
●年齢が上がるごとに少しずつ長くなる傾向が見られる
以上。
日本人のほうが長いというのは完全にデマ、っつーか食い物によって腸の長さが伸び縮みするような生き物じゃないよね人間って…。たぶん元々の話って、肉食獣(ライオンとか)と草食獣(ウシとか)の腸の長さを比較したところから発生した根拠のない推測が、いつの間にか裏付けのある話のようにすり替わってしまったのではないかと思われる。ライオンと牛の腸の長さは確かに違うけど、そもそも種族違うからそりゃ当然だろっちゅー話で。
さて、この論文は1300名というかなり大きな集団を扱っている。
集団が大きくてデータも豊富だと、出てくる結論の蓋然性は高くなる。
被験者は50歳以上の日本人とアメリカ人、それぞれ650名で同数。年齢が50歳以上なのは、それぞれ日本とアメリカの医療機関で大腸ガン有無の検査をするついでに測定してるから。ガンの罹患率の高くなる年齢以降の人じゃないと、大腸の検査なんて行きませんものね。
調査手法は、腸に炭酸ガスを入れて膨らませて3D映像にして、腸管の中央を結んで線に変えて測定、という方法なので、体内に格納した状態での腸の長さの測定としては妥当な手順かと思う。
そして、結果のデータはこんなかんじ。見ての通り個人差もほとんど違いなし。
ていうか肉食って言われるアメリカ人のほうがむしろちょっと長いっていうのが面白い。
文中に他の国での結果なども記載されているけれど、いずれも文化圏ごとの差異はほとんどないという結果。
参考までに、今回引用した論文で参照されている「山崎ら」の論文はこちら。
最近は色んなものがJ-STAGEで検索できるようになったから便利になり申した…。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoloproctology1967/47/1/47_1_31/_pdf
これを見て、もしかしたら「単純な腸の長さじゃない、腸のヒダの問題だ。延ばせば長いんだ」と反論してくる人もいたりしそうだけど、それだと長さじゃなく表面積の比較になるし、残念ながらそれを証明する研究は見つからなかった。おそらく腸の表面積を調べるのはかなりやり方を考えないと厳しいと思うな。全部のひだを広げるのは難しいから、概算でしか出せないだろうし。
それよりも、
長さや表面積に差が無くても、文化圏ごとに大腸の働きが異なる可能性はある
という可能性を考えたほうがいい。
どういうことかというと、食生活によって腸内に住み着く細菌の分布具合が異なり、得意とする食べ物が異なるという研究があるのだ。
たとえば、以前調べたこれなんかがそう。
海草(海藻)を消化できるのは日本人だけ! という話の出所を調べたら、話が全然違ってた
https://55096962.seesaa.net/article/201801article_11.html
日本人の一部から生の海藻を効率的に消化できる腸内細菌が見つかっている、というお話。(ただし「日本人だけ」ではないし、日本人の全てでもない)
それぞれの文化圏ごとに、長年の食生活に応じた腸内細菌が住み着いている。だとすると、自分の生まれ育った国の習慣的な食べ物がいちばん体に合うとか、いちばん消化がいいとかいう感覚的な話も理解できるだろう。味覚は慣れればなんとかなるにしろ、腸内細菌はいきなり変えるの難しそうだからなあ。
というわけなので、日本人は腸が長いから和食が体にいいとか、草食だと腸が長くなるとか、そんなことはない。
もしそういう主張を見つけたら、あっこれデマやな触らんとこーって回れ右でいいっす。
お疲れさまでした。
なぜか最近、大腸菌の話とか大腸の話とか調べることが多くてなんでやねんという感じです。いや、ほんとになんでやねん。
というわけで、今日は「日本人は欧米人より腸が長い」というデマについての反証と実際を調べてみた。
うん、まぁデマなんだ。なぜか信じてる人が多いけど。
ただ、「デマなんだよ」だけではつまらんので、じゃあ実際はどうなのか、というところを調べてみた。いい論文があるんですよね、どんぴしゃなやつが。
日本人とアメリカ人の大腸の長さは違うのか?―大腸 3D-CT(仮想内視鏡)による 1,300 名の検討―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/55/3/
結論だけ書くと
●文化圏ごとの腸の長さに違いはない
●年齢が上がるごとに少しずつ長くなる傾向が見られる
以上。
日本人のほうが長いというのは完全にデマ、っつーか食い物によって腸の長さが伸び縮みするような生き物じゃないよね人間って…。たぶん元々の話って、肉食獣(ライオンとか)と草食獣(ウシとか)の腸の長さを比較したところから発生した根拠のない推測が、いつの間にか裏付けのある話のようにすり替わってしまったのではないかと思われる。ライオンと牛の腸の長さは確かに違うけど、そもそも種族違うからそりゃ当然だろっちゅー話で。
さて、この論文は1300名というかなり大きな集団を扱っている。
集団が大きくてデータも豊富だと、出てくる結論の蓋然性は高くなる。
被験者は50歳以上の日本人とアメリカ人、それぞれ650名で同数。年齢が50歳以上なのは、それぞれ日本とアメリカの医療機関で大腸ガン有無の検査をするついでに測定してるから。ガンの罹患率の高くなる年齢以降の人じゃないと、大腸の検査なんて行きませんものね。
調査手法は、腸に炭酸ガスを入れて膨らませて3D映像にして、腸管の中央を結んで線に変えて測定、という方法なので、体内に格納した状態での腸の長さの測定としては妥当な手順かと思う。
そして、結果のデータはこんなかんじ。見ての通り個人差もほとんど違いなし。
ていうか肉食って言われるアメリカ人のほうがむしろちょっと長いっていうのが面白い。
文中に他の国での結果なども記載されているけれど、いずれも文化圏ごとの差異はほとんどないという結果。
参考までに、今回引用した論文で参照されている「山崎ら」の論文はこちら。
最近は色んなものがJ-STAGEで検索できるようになったから便利になり申した…。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoloproctology1967/47/1/47_1_31/_pdf
これを見て、もしかしたら「単純な腸の長さじゃない、腸のヒダの問題だ。延ばせば長いんだ」と反論してくる人もいたりしそうだけど、それだと長さじゃなく表面積の比較になるし、残念ながらそれを証明する研究は見つからなかった。おそらく腸の表面積を調べるのはかなりやり方を考えないと厳しいと思うな。全部のひだを広げるのは難しいから、概算でしか出せないだろうし。
それよりも、
長さや表面積に差が無くても、文化圏ごとに大腸の働きが異なる可能性はある
という可能性を考えたほうがいい。
どういうことかというと、食生活によって腸内に住み着く細菌の分布具合が異なり、得意とする食べ物が異なるという研究があるのだ。
たとえば、以前調べたこれなんかがそう。
海草(海藻)を消化できるのは日本人だけ! という話の出所を調べたら、話が全然違ってた
https://55096962.seesaa.net/article/201801article_11.html
日本人の一部から生の海藻を効率的に消化できる腸内細菌が見つかっている、というお話。(ただし「日本人だけ」ではないし、日本人の全てでもない)
それぞれの文化圏ごとに、長年の食生活に応じた腸内細菌が住み着いている。だとすると、自分の生まれ育った国の習慣的な食べ物がいちばん体に合うとか、いちばん消化がいいとかいう感覚的な話も理解できるだろう。味覚は慣れればなんとかなるにしろ、腸内細菌はいきなり変えるの難しそうだからなあ。
というわけなので、日本人は腸が長いから和食が体にいいとか、草食だと腸が長くなるとか、そんなことはない。
もしそういう主張を見つけたら、あっこれデマやな触らんとこーって回れ右でいいっす。
お疲れさまでした。