ベネズエラ経済破綻の社会実験、15年を経て革命の答え合わせを

図書館で古い本を漁っていたら、15年ほど前のベネズエラ経済の本が出て来た。
2002年のクーデター未遂の少しあと、故チャベス大統領が革命を打ち出したあたりに出版された本である。反米・社会主義といったキーワードが踊っているのは現在と同じだが、どの本も、革命によって状況が好転すると信じて書かれている、ポジティブな雰囲気が印象的である。もちろん、15年後にこんなに酷い状況になるとは予想しなかった、というよりしたくなかったから、なのだろうが… 現状を知ってから「答え合わせ」をすると、とても悲しい気分になってくる。

 全ては 絵に描いた餅 だったのだ。

そして、現在に至るこの大失敗な政策を手放しで賞賛してしまった経済学者、政治家、文化人もまた、未来の趨勢を決める大事な要素を見誤ったか、見積り損ねて大失敗したことになる。

もちろん、未来を完璧に予測できるわけがないので仕方のない部分もあるのだが…、彼らが一体なにを見落としたのかを考えてみるのは有意義だ。なぜなら、その「見落とし」こそが未来の行くすえを決めた重要因子だからだ。

というわけで、まだマシと呼べる見解を書いていた一冊取り上げてみる。
こちら「革命のベネズエラ紀行」。チャベス革命が始まったばかりの2004年にベネズエラを旅した記録である。

革命のベネズエラ紀行
新日本出版社
新藤 通弘

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まずこの著者の欠点は、とにかくアメリカ憎しでアメリカの内政干渉について書きすぎなこと。
反チャベス派はアメリカの支援を受けている、とか、メディアは反チャベス派に利用されている、といったことを主張していて、そこに囚われるあまり、当のチャベス派のほうはロシア・中国の支持を得ていたことを書き忘れている。ただしこれは、この著者だけの問題ではなく、当時チャベス氏の改革を支持していた人たちにおおむね共通して見られる傾向のようだ。

チャベス派の支持率がさほどではないことを認識してるのに、いつのまにか「アメリカに影響を受けていない国民の大半はチャベスを支持しているはず」という雰囲気になってしまっているが、果たして、本当にそうだったのか。
アメリカの影響は悪であり、アメリカと敵対するロシア・中国の影響が悪ではないなどという話ではない。大国の思惑にのせられ、利用されるのは、相手がどこの国でもマズいと考えるべきだったのではないだろうか…。

実際、チャベス時代に中国とズブズブになって行った農地改革が大失敗だったことは、最近も報道されていた。この本の中に出てくる政策の結果はここで知ることが出来る。

飢えと腐敗、ベネズエラ中国事業の「負の遺産」
https://jp.reuters.com/article/venezuela-china-food-idJPKCN1SK08F


"カリブ海に面したベネズエラのデルタアマクロ州で、中国の建設会社が、故チャベス大統領との間で大胆な合意を交わした。この国有企業が、新たな橋や道路、食品工場のほか、ラテンアメリカで最大の精米工場を建設する、というものだった。

ロイターが確認した契約文書のコピーによると、中工国際工程(CAMC)(002051.SZ)が2010年に交した合意は、ニューヨークのマンハッタン島の倍の広さの水田を開発し、地元に11万人の雇用を創出するという計画だった。

ベネズエラの社会主義政府が、貧困層支援という公約への取り組みを示すのに、この未開発の州は格好の場所だった。また、チャベス前大統領と、彼に後継者として指名されたマドゥロ現大統領が、豊富な石油資源を持たない地域の開発のために中国や他の同盟国から協力を得られることを示せる機会となるはずだった。

「コメの力!農業の力だ!」と、当時チャベス氏はツイートした。

9年後の今、地元住民は空腹を抱えている。"



見落としの一つは、こうして明らかに出来る。アメリカからの内政干渉を気にするあまり、それ以外の国からの影響を見落とした。実際、現在のベネズエラの経済状況を見ていると、中国への債務支払いが石油で行われているため、石油の減産や値下がりに加えて、債務支払い分が財政を圧迫しているのが判る。中国がベネズエラを支援するのは、何もベネズエラのためというわけではない。債務取り立てのためには、契約を履行するだろう現在の政府に居て貰わねば困るからだろう。


そして次の見落としは、ベネズエラ政府の主張をプロパガンダだと認識できず、綺麗ごとのまま受け取ってしまったところだ。もっとも、この著者はその中に違和感は感じているようで、そこが「まだマシ」と評価した部分になる。
インタビューで話を聞き終えたあとに「汚職、横流し、特権意識、政府援助依存意識などがはびこらないかな」と書いているが、そのうっすらとした疑いは15年後の今から見ると当たっている。まさに、そういう思考がはびこって見事に全部コケたのが今のベネズエラの状態だ。

そしてチャベス大統領が撲滅を宣言した汚職の問題は、その後、マドゥロ大統領の時代に移ると、より酷さを増していくことになる。
というより、今から振り返ってみればそもそもの改革の方向が、「より汚職に手を染めやすい社会」への転換であった。著者は「ラテンアメリカの汚職はどこだって酷いものだ」とまるで自分に対する言い訳のように書いているが。それなら尚更、汚職に手を染めやすい社会構造は避けなければならなかったし、この部分の影響を甘く見積もりすぎたと思う。



文盲率を下げるために政府が学校を経営し、子供たちに教育を施す。
それは多くの人に受け入れられる活動だし、歓迎もされるだろう。しかし学校に納入する文具や学校で提供される給食の業者を政府の息のかかった販売元や親族で固めて、支払い金額も政府が一方的に決める場合はどうなるか。
学校教育という大義名分の裏で、不正取引が横行するのは予想がつく。



失業率を下げるために国が支援して民間に事業を立ち上げさせる。
開業時にかかるお金は政府援助で出される。これも良い取り組みだが、そうして生産された商品を政府が一括で安く買い上げるというのはどういうことか。しかも市場に出回るよりはるかに安い金額で買い取られるといううのである。
それはつまり、事業が自立する日は永遠に来ず、政府援助がなければ立ち行かない、生産するだけ赤字の産業が乱立するということだ。また、開業したフリをして援助金だけ受け取る詐欺もいくらでも出来るだろう。
特に「汚職がひどい」と言われている国でこんな制度を導入すること自体、はっきり言えば自殺行為だ。



結果を知ってから何とでも言えてしまうのだが、ゆえに、チャベス氏の改革は失敗を「約束された」改革だった。



ベネズエラは、改革の行われる以前に既に経済的な危機に向かいつつあり、失業率が上昇し、貧困の問題を抱えていた。それらを解決するために革命者が望まれ、チャベス大統領が当選する。しかし、その改革の方向性は間違っていた。社会主義で皆平等になり、国が国民を豊かにするという幸せな夢は、結局、一部の特権階級に富と権力を集中させ、国をより貧しくしただけだった。

著者は最後に「これは世界史的に興味のある実験と言えよう」と書いているが、であれば、実験の結果は大失敗であったことを受け入れなければならない。現在のベネズエラは、かつて近代国家であったものが電力も飲み水もままならない発展途上国まで転落し、もはや国家の体を保てなくなるまで負の耐久実験を続けているようなものだ。
悲しい現実だが、少なくともこれは、ベネズエラという国が自分自身で選んだ理想の成れの果てである。


今、ベネズエラからは大量の難民が発生し、同時に多数の餓死者も出している。
石油モノカルチャーに頼っている国であり、しかも多額の債務を負っているとなれば立て直しは容易ではないと思われるが、それでもいつかは立ち直れるはずだ。失敗は成功の母と言われるが、失敗から学ばなければ何度失敗しても成功は引き寄せられない。ここからの建て直しルートこそ、他の、経済不振に悩む中南米諸国の希望となって欲しいものである。

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