これが本当の鉄(Fe)オタの頂点「人はどのように鉄を作ってきたか」

古代の製鉄についての資料を探していた時、人づてに「ヤベエ本がある」と聞いたのでさっそくポチって読んでみたらガチでヤベエやつだった。古代の製鉄を炉から再現してる研究者がいたよ…。



タイトルどおり「人はどのように鉄を作ってきたか」という本だが、歴史や考古学の本ではなく 製鉄の本 である。著者はガチ勢なので自ら川で砂鉄を集め、製鉄をする。古代式の炉でも、伝統的なたたら製鉄でもお手の物。さらに電子レンジで鉄を作ろう、なんていうものまで図解してある。これは…これはご家庭のお子様がついやっちゃうやつ…。

原始的な炉での作り方まで実践で書いてくれているので、異世界サバイバルとかにオススメの一冊である。というか異世界も鉄分豊富な惑星であるならば、の話だが。


製鉄の歴史を書いた歴史や考古学の本は、著者の製鉄知識が乏しく、机上の空論で変な記述になっていることも多い。
たとえば、「鉄の融解温度は銅より高いので、鉄器のほうが銅器より作るのが難しい」といった記述だ。
…そもそも古代人は鉄を完全に融解して鉄器作ってたわけじゃないし、条件次第では、銅とほぼ同じ温度で溶かすことも出来る。

また鉄器を作るには燃料となる木炭と、冷却のための水が不可欠だ。
なので鉱山の近くというよりは、豊富な水場が近くにある土地でないと製鉄業に向かない。
…というような基本事項は、製鉄技術に精通している人が書かないと出てこない。

それに加えて、各時代、地域ごとの製鉄方法の違いや、そもそもの鉄を得る方法(鉱山から/湖から/川から 等)が違うといった内容を、ギュウギュウ詰め込んであるのがこの本。かなりサラリと書いてあるが、「フィンランドの製鉄遺跡行って炉を見てきたんで炉の図面と製鉄方法書いとくわー」みたいな感じなので「??? え、いきなり回答行くのこれ」などとちょっとびっくりする。全然迷いがない。そのノリで「駐車場に炉を作って試してみた。鉄できた」みたいなことが書いてあるので、開始10ページ目で「なるほど、この本は確かにヤバイ」と気づく。

製法ごとの、出来てくる鉄の歩合や成分の違いなど、そこまで細かいデータ出されてもちょっと追い付けないんですが、的な内容もあり、とにかく濃い。余計な文言は一切入れずに最初から最後まで、ひたすら製鉄技術についてのみ語り続けている。


鉄は確かに不思議な金属だ。古来からどういうわけか人間を引き付けてきた。
その謎の魅力に取りつかれた人の、鉄をも融解させる情熱を感じる本であった。


***
関連記事

鉄器が広まり始めた理由と技術の変遷/ヒッタイト崩壊後、真の鉄器時代に至るまで
https://55096962.seesaa.net/article/201805article_10.html

青銅→鉄器時代への狭間に存在したバイメタル文化と製鉄技術の伝播について
https://55096962.seesaa.net/article/201708article_9.html

この記事へのトラックバック