エチオピアの小麦はどこへ行った 20年前の本と比べる現在

古代エジプトで栽培されていたエンマーコムギの話を調べていたときに、この本を買った。
そこに、古代の小麦が今も栽培されている国としてエチオピアが紹介されていた。エチオピアの首都アジスアベバのはずれにあるエントット山では小麦畑が作られていて、著者は、谷のあたりに昔ながらのエンマーコムギの畑を見たという。

ムギの民族植物誌―フィールド調査から
ムギの民族植物誌―フィールド調査から

で、今年ちょっとエチオピアに行ったときに、自分もエントット山には登ってたんである。
でも小麦畑どころかそもそも小麦畑を見た覚えがない…無いぞ… そして気づいてしまった。

 そもそもアジスアベバ近郊では小麦を見ていない

地方都市には一杯あったけど。アジスアベバには畑なんて無かった…大都会だった。
エントット山から見下ろす景色には、ここ10年くらいで作られた高層ビルが立ち並んでいて、山の斜面も住宅地になっていた…。

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著者が見たというユーカリの林は今もあったし、羊を追う子供の姿も見かけた。
でも山の斜面には電気のケーブルががっつり引かれ、頂上まで舗装道路が通されていて、とても「農村」ではなかった。
「大自然にしっくり溶け込んだ人間の暮らし」はもう無いし、「あちこちにムギ畑が散在」でもない。改めて写真を見返してみて、本に書かれているフィールド調査の情景との違いに驚いた。

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この本が出たのは1996年。あとがきを見ると、フィールドでの調査は1972年から1994年までの間に行ったという。
エチオピアに麦は、紀元前3,000年頃に到来したと考えられている。その当時の面影を残す麦は、調査の頃にはあったのだが、今はもう、同じ場所には無い。アジスアベバに中国資本が流れ込み、急速に都会化したのがここ10年くらいのことだから、きっと変わってしまったのもそのくらいの間のことなのだろう。


ただしまだ望みはある。
エチオピアで都市化されているのは首都付近だけで、地方都市に行くと昔ながらの畑が延々と続く光景がまだ広がっている。しかし舗装道路がどんどん拡張され、電気も引かれている昨今、この風景もいつなくなってしまうか分からない。古代ムギのフィールド調査に行きたい研究者は、ぜひお早めに。

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