エルサレムの発掘と考古学/考古学が政治に利用される場所
ナショジオ12月号の特集で、エルサレムの考古学の話をやっていた。
イスラエルにおいては考古学と政治が昔から分かちがたく結びつき、考古学が政治によって左右されることが多くあった(関係者からは否定されるが)。
それがここ最近、もはやツッコミ入れても間に合わない感じになってきてる現状がある。
エルサレムの発掘が盛んに、背景に政治的意図
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/112100675/
ざっくり言うと、「エルサレムは昔からユダヤの聖地であった」「イスラエルにユダヤ人が住むことは歴史的に正しい」という主張を考古学によって裏付けようとしているのが、現状の動きである。しかし歴史には連続性があり、ユダヤ人が住み始める以前の先住民がいるし、ユダヤ人と同居していた別民族もいるし、ユダヤ人の多くが去ったあとに移住してきた人々や支配した王国もある。それらが無視されがちなのだ。
また、聖書の内容が完全に歴史的事実と重なるわけではないにも関わらず、「聖書の内容が裏付けられた」という主張ばかりが大々的に宣伝されるという問題もある。さらに最近では、パレスチナ人の居住地を買収して発掘してここは元々ユダヤ人の土地だった、と主張する行為なども行われているので、そりゃあ揉めるよね。という感じである。
特集記事としてそのあたりに触れられていて、内容としてはふーんという感じだったのだが、ナショジオは寄付金などいろんな権利者が絡んで出版されている雑誌なので、若干濁して書かれている部分もあると思う。
別の視点からちょうどいい具合に見ることの出来る本が邦語でもある。
それがこちら。

イスラエルの文化遺産マネジメント
ナショジオの特集で触れられていた「西壁」の発掘の話は、この本の中で「西壁遺跡財団による西壁トンネルツアー」として触れられている部分に当たる。ユダヤ教における聖地である西壁を、非政府系の団体に管理させることで批判をかわす狙いがあるようなのだが、実際は宗教省との繋がりがあり、ユダヤ教を前面に押し出した文化遺産マネジメントが行われているという。
現在、観光客はこの団体のツアーに参加しなければ西壁を見ることは出来ない。また、遺跡自体は広いものの、観光で案内されるのは「ローマ時代、とくにヘロデ王時代の第二神殿とその関連遺構」に集中しており、その地域の歴史的な多様性、つまり他の時代については、知ることが出来ないという。
現状、イスラエルの考古学会には多くの問題がある。
遺跡が多すぎて、それらを管理するには資金面でも人材という面でも厳しいということ。
宗教的、右派的な考え方が強く支配しすぎて、発掘の結果を科学的に評価できづらい(聖書に無理やりなぞらえようとする派閥もある)。
また、パレスチナ問題やエルサレムの帰属問題など、民族・国家間の軋轢を抱えた状態が続いている。
エルサレムは複数の宗教の聖地であり、発掘一つとっても、ユダヤ教徒以外からの批判を受ける立場にある。
ここ最近のアメリカとイスラエルの関係や、イスラエル自身の発表している内容を見ていると、問題を穏便に解決しようというよりは、むしろ力づくで、既成事実を積み上げればなんとでもなるだろう的な方向で押し込もうとしている感がある。100年前ならそれでもいけたんだと思うけど。今の時代はちょっと巧くないと思うな…。
ちなみに、イスラエルでの民族対立というとユダヤ人とパレスチナ人の場合が多く想起されるが、実は目立つ対立をしていないだけでユダヤ人とアラブ人という対立も存在する。ただしアラブ人はパレスチナ人よりは余裕がある。何故かというと周辺のアラブ諸国との繋がりを持っていられるからと、人口比的に、近い将来ユダヤ人を逆転する(!)可能性が高いからである。そう、イスラエルでは今、多産なアラブ人の増加がひっそり問題になっているのである。もっともこれは、戦争でアラブ人の多い地域まで支配下に置いてしまった時から、ある程度運命づけられていた問題ではあるのだが。
イスラエルが強硬に考古学を宗教に利用しようとするようになったのには、一つには、アイデンティティの分裂への危機感があると思っている。
先述したアラブ人の増加の問題に加え、同じ「ユダヤ人」内でも超正統派と世俗派、世俗派の中でも外国にアイデンティティを持ってしまっている若い世代、或いはシオニストかそうでないか、など、価値観は多岐にわたり、もはやユダヤ教という宗教一本で国を取りまとめられる状態にはない。
これは単に歴史と考古学の話ではなく、イスラエルという多民族国家の抱える、民族アイデンティティへの挑戦の話でもあると思うのだ。
イスラエルにおいては考古学と政治が昔から分かちがたく結びつき、考古学が政治によって左右されることが多くあった(関係者からは否定されるが)。
それがここ最近、もはやツッコミ入れても間に合わない感じになってきてる現状がある。
エルサレムの発掘が盛んに、背景に政治的意図
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/112100675/
ざっくり言うと、「エルサレムは昔からユダヤの聖地であった」「イスラエルにユダヤ人が住むことは歴史的に正しい」という主張を考古学によって裏付けようとしているのが、現状の動きである。しかし歴史には連続性があり、ユダヤ人が住み始める以前の先住民がいるし、ユダヤ人と同居していた別民族もいるし、ユダヤ人の多くが去ったあとに移住してきた人々や支配した王国もある。それらが無視されがちなのだ。
また、聖書の内容が完全に歴史的事実と重なるわけではないにも関わらず、「聖書の内容が裏付けられた」という主張ばかりが大々的に宣伝されるという問題もある。さらに最近では、パレスチナ人の居住地を買収して発掘してここは元々ユダヤ人の土地だった、と主張する行為なども行われているので、そりゃあ揉めるよね。という感じである。
特集記事としてそのあたりに触れられていて、内容としてはふーんという感じだったのだが、ナショジオは寄付金などいろんな権利者が絡んで出版されている雑誌なので、若干濁して書かれている部分もあると思う。
別の視点からちょうどいい具合に見ることの出来る本が邦語でもある。
それがこちら。

イスラエルの文化遺産マネジメント
ナショジオの特集で触れられていた「西壁」の発掘の話は、この本の中で「西壁遺跡財団による西壁トンネルツアー」として触れられている部分に当たる。ユダヤ教における聖地である西壁を、非政府系の団体に管理させることで批判をかわす狙いがあるようなのだが、実際は宗教省との繋がりがあり、ユダヤ教を前面に押し出した文化遺産マネジメントが行われているという。
現在、観光客はこの団体のツアーに参加しなければ西壁を見ることは出来ない。また、遺跡自体は広いものの、観光で案内されるのは「ローマ時代、とくにヘロデ王時代の第二神殿とその関連遺構」に集中しており、その地域の歴史的な多様性、つまり他の時代については、知ることが出来ないという。
現状、イスラエルの考古学会には多くの問題がある。
遺跡が多すぎて、それらを管理するには資金面でも人材という面でも厳しいということ。
宗教的、右派的な考え方が強く支配しすぎて、発掘の結果を科学的に評価できづらい(聖書に無理やりなぞらえようとする派閥もある)。
また、パレスチナ問題やエルサレムの帰属問題など、民族・国家間の軋轢を抱えた状態が続いている。
エルサレムは複数の宗教の聖地であり、発掘一つとっても、ユダヤ教徒以外からの批判を受ける立場にある。
ここ最近のアメリカとイスラエルの関係や、イスラエル自身の発表している内容を見ていると、問題を穏便に解決しようというよりは、むしろ力づくで、既成事実を積み上げればなんとでもなるだろう的な方向で押し込もうとしている感がある。100年前ならそれでもいけたんだと思うけど。今の時代はちょっと巧くないと思うな…。
ちなみに、イスラエルでの民族対立というとユダヤ人とパレスチナ人の場合が多く想起されるが、実は目立つ対立をしていないだけでユダヤ人とアラブ人という対立も存在する。ただしアラブ人はパレスチナ人よりは余裕がある。何故かというと周辺のアラブ諸国との繋がりを持っていられるからと、人口比的に、近い将来ユダヤ人を逆転する(!)可能性が高いからである。そう、イスラエルでは今、多産なアラブ人の増加がひっそり問題になっているのである。もっともこれは、戦争でアラブ人の多い地域まで支配下に置いてしまった時から、ある程度運命づけられていた問題ではあるのだが。
イスラエルが強硬に考古学を宗教に利用しようとするようになったのには、一つには、アイデンティティの分裂への危機感があると思っている。
先述したアラブ人の増加の問題に加え、同じ「ユダヤ人」内でも超正統派と世俗派、世俗派の中でも外国にアイデンティティを持ってしまっている若い世代、或いはシオニストかそうでないか、など、価値観は多岐にわたり、もはやユダヤ教という宗教一本で国を取りまとめられる状態にはない。
これは単に歴史と考古学の話ではなく、イスラエルという多民族国家の抱える、民族アイデンティティへの挑戦の話でもあると思うのだ。