息子を悼むヴァイキングの詩の意味は? レーク石碑と冬の時代

デンマークにあるルーン石碑の一つ「Rök runestone」の碑文は、ルーン石碑にしては長文でやや難解なうえ、一部が欠けているため、完全な翻訳が出来ず意味の解釈についても人によって若干のブレがある。(もっとも、北欧神話の詩はだいたいそういう感じなのだが…。)
そのレーク石碑の文章について、新たな解釈が出た、というニュースが流れていた。長い冬についての記述は過去に起きたヨーロッパの寒冷化を指しているのではないか、というものだ。

Viking runestone linked to fears of climate change: study
https://phys.org/news/2020-01-vikings-erected-runestone-climate-catastrophe.html

バイキングの「ルーン石碑」、気候変動への懸念に関連か 研究
https://www.afpbb.com/articles/-/3262806

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基本知識として、ルーン石碑はヴァイキング時代に北欧に多数建てられた、ルーン文字を刻んだ記念碑。そのほとんどが故人を悼むもの、死者の記憶を留める記念碑のようなものになっており、神話や宗教に関連したモチーフが使われていることも多い。ほとんどの石碑は文章が短いのだが、このレーク石碑は例外的に文章がめっちゃ長く、詩的にものになっている。そのため、深読みしようと思えば深読みすることが可能なのだ。

ちなみに、この石碑については、個人サイトで詳しく説明してくれているところがある。
ここに全文の訳もあり、これが従来の翻訳結果と意味の解釈になる。
http://www.runsten.info/runestone/oster/rok/index.htm

冒頭の部分だけ見ると他の石碑と同じく息子の死を悼む内容になっているのだが、そこからテオドリック王など過去の伝説的人物の話に移っているのが特徴的だ。ただ、これをどう深読みすれば記事にあるような気候変動の話として解釈できるのかは、よく分からない。6世紀の気候変動があり、それが石碑の建てられた時期にも起きる可能性があった、とは、かなり恣意的な読み方をしないと読めない気がするのだが…。

北欧神話の原典は謎めいた(謎めいているように見える)詩が多いため、深読みしようとすれば出来るのだが、無い文脈を糞読みしようとするとだいたいドツボにはまって明後日に行く仕様となっている。私はこれは、気候変動が騒がれる昨今の流行に乗った解釈に過ぎないと思う。

あと、北欧神話の世界観がいつどこで作られたものなのについては所説あり、9世紀の時点でラグナロクの概念が一般的だったかどうかすら分からないので、それと結びつけるのはちょっとロマン主義すぎるかなぁという気が。今残ってる北欧神話のテキストって、ほぼ10世紀以降、かつ「エッダ」が大半なんですよね…。9世紀のものと分かっているのは英雄サガ類が大半。ラグナロクについて語る有名な「巫女の予言」も、10世紀後半~11世紀初頭くらいのものだし。

変に深読みせず、この石碑は、息子の死と、そこに連なる過去の英雄たちの記憶(先祖?)を語ったもの、と解釈していいんじゃないかな…。

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