微妙なとぼけ具合と緊迫感。在チュニジア日本大使の見た「革命」の舞台裏
「『アラブの春』とは一体何であったのか」といういかにも堅苦しいタイトルの本だったが、ぱらっと捲ったら「銃撃戦のさなかに食べてた非常食の安倍川餅がすごかった。水入れたらすぐ出来る。メーカーはxxx」とか、その情報必要だった?! みたいなノホホン日記が出て来て、興味を惹かれて読んでみた。いわゆる「ジャスミン革命」のまさにその時、チャニジアにいた日本の大使が体験した出来事や見て来たものの「回顧録」である。
「アラブの春」とは一体何であったのか 大使のチュニジア革命回顧録 - 多賀 敏行
学者でもジャーナリストでもなく大使が書いているので、机上の空論的な分析はなく、外野の妄想も入っていない。実際に体験し、見聞きしたものが元になっている。その反面、当時のメモ書きから起こしている部分が多いため、内容は同じことを繰り返していたり、あまりまとまりは良く無かったりする。一次資料としての価値はあるが、この事件について全く予備知識のない人にはとっつきにくいかもしれない。
著者はざっくりと、「アラブの春」とはいうが民主化なんて実現されていない、と断言する。
独裁政権が倒れたあとに出来たのは結局独裁政権で、しかもチュニジアにおいては、かつてベン・アリ政権に属していたというだけで有能な官僚たちが罷免され、仕事の出来ない人たちが地位を得てしまい悪化したという。同じことはエジプトでも起きていた。
なぜ革命が成功したのかは著者自身にもよく分からないという。
その顛末は何となく、ぽかミスでベルリンの壁が崩壊したエピソードに似ている。ベン・アリがあの時、たまたま国外に出なければ、その後の近隣諸国への飛び火も、血で血を洗う各国の大惨事も連動しなかったかもしれない。「隣国の同僚、カダフィ、ムバラクに迷惑をかけたと思う」という書きっぷりはユーモラスに感じるとともに悲しくなってしまう。暴力によって多くの人命が失われ、結果、何かが好転したとも言えない今の状況では、確かに「春」などどこにも来ていないのだ。
チュニジア人は、「ジャスミン革命」という言い方を好まないという。
その名前はフランスが勝手につけたもので、ロマンチックすぎる話だという。革命に対する現地の人の反応などは、おそらくその時、その場所にいた人でなければ分からない。
また、暴動の切っ掛けとなった焼身自殺した若者は、許可なく路上で商売したことを女性警察官に咎められ、その腹いせからセクハラ発言をして平手打ちを食らい、男が公然と女にはたかれたのを恥辱に感じて焼身自殺したのだという。実際は殉教者でもなければ歴史に名を残すべきでもないしょっぱい人物が、メディアによって革命の旗印として祭り上げられていくのは、歴史上何度も繰り返されてきたプロパガンダの一種だろう。
歴史としておおっぴらに出回るのは、欧米の大手メディアが宣伝したものであることが多い。だからこの本の内容は、いわば歴史を「裏側」から見た世界である。その意味で、この本は興味深く読むことが出来た。
******
本のエッセンス部分について、Web記事もある。
目の前で起きたジャスミン革命 「アラブの春」渦中にいた元日本大使が語る「あの時」
https://globe.asahi.com/article/11950265
この記事に書かれていないあまりマジメではない部分を読みたい人には本がお勧めだ。
途中で銃弾に倒れるにしてもスーツ着てたほうが身分が分かりやすいだろうからと大使公邸から脱出するにあたりわざわざスーツを着たことや、護衛の警備隊にいい印象を与えようと話しかけてみたなど、なかなか面白い話も出てくる。非常事態にもサラリーマンはスーツを忘れてはいけない。ネクタイもちゃんと締めよう。
あと、おフランスの黒い介入の話とかね…。
イギリスさんもだいたいド外道だけど、フランスも北アフリカではほんとぐう畜。マジで。元大使これ書いちゃっていいのか。
やっぱほんと人権とか自由とかの話では欧米さんに追従したくないわ。ろくなことにならない。
「アラブの春」とは一体何であったのか 大使のチュニジア革命回顧録 - 多賀 敏行
学者でもジャーナリストでもなく大使が書いているので、机上の空論的な分析はなく、外野の妄想も入っていない。実際に体験し、見聞きしたものが元になっている。その反面、当時のメモ書きから起こしている部分が多いため、内容は同じことを繰り返していたり、あまりまとまりは良く無かったりする。一次資料としての価値はあるが、この事件について全く予備知識のない人にはとっつきにくいかもしれない。
著者はざっくりと、「アラブの春」とはいうが民主化なんて実現されていない、と断言する。
独裁政権が倒れたあとに出来たのは結局独裁政権で、しかもチュニジアにおいては、かつてベン・アリ政権に属していたというだけで有能な官僚たちが罷免され、仕事の出来ない人たちが地位を得てしまい悪化したという。同じことはエジプトでも起きていた。
なぜ革命が成功したのかは著者自身にもよく分からないという。
その顛末は何となく、ぽかミスでベルリンの壁が崩壊したエピソードに似ている。ベン・アリがあの時、たまたま国外に出なければ、その後の近隣諸国への飛び火も、血で血を洗う各国の大惨事も連動しなかったかもしれない。「隣国の同僚、カダフィ、ムバラクに迷惑をかけたと思う」という書きっぷりはユーモラスに感じるとともに悲しくなってしまう。暴力によって多くの人命が失われ、結果、何かが好転したとも言えない今の状況では、確かに「春」などどこにも来ていないのだ。
チュニジア人は、「ジャスミン革命」という言い方を好まないという。
その名前はフランスが勝手につけたもので、ロマンチックすぎる話だという。革命に対する現地の人の反応などは、おそらくその時、その場所にいた人でなければ分からない。
また、暴動の切っ掛けとなった焼身自殺した若者は、許可なく路上で商売したことを女性警察官に咎められ、その腹いせからセクハラ発言をして平手打ちを食らい、男が公然と女にはたかれたのを恥辱に感じて焼身自殺したのだという。実際は殉教者でもなければ歴史に名を残すべきでもないしょっぱい人物が、メディアによって革命の旗印として祭り上げられていくのは、歴史上何度も繰り返されてきたプロパガンダの一種だろう。
歴史としておおっぴらに出回るのは、欧米の大手メディアが宣伝したものであることが多い。だからこの本の内容は、いわば歴史を「裏側」から見た世界である。その意味で、この本は興味深く読むことが出来た。
******
本のエッセンス部分について、Web記事もある。
目の前で起きたジャスミン革命 「アラブの春」渦中にいた元日本大使が語る「あの時」
https://globe.asahi.com/article/11950265
この記事に書かれていないあまりマジメではない部分を読みたい人には本がお勧めだ。
途中で銃弾に倒れるにしてもスーツ着てたほうが身分が分かりやすいだろうからと大使公邸から脱出するにあたりわざわざスーツを着たことや、護衛の警備隊にいい印象を与えようと話しかけてみたなど、なかなか面白い話も出てくる。非常事態にもサラリーマンはスーツを忘れてはいけない。ネクタイもちゃんと締めよう。
あと、おフランスの黒い介入の話とかね…。
イギリスさんもだいたいド外道だけど、フランスも北アフリカではほんとぐう畜。マジで。元大使これ書いちゃっていいのか。
やっぱほんと人権とか自由とかの話では欧米さんに追従したくないわ。ろくなことにならない。