アメリカ大陸に人類が到達したのは3万年前、定説を覆す!→覆ってないです…。
たぶん大元の記事はこれなんだと思うんだけど、「アメリカ大陸に人類が到達したのは3万年前!」みたいな話が一人歩きしてそうだったので、ちょっと注釈を。
人類、3万年前から米大陸に 通説より1.5万年早く
https://www.afpbb.com/articles/-/3295255
今回の3万年うんぬんの元ネタはこのへんなのだと思うが、タイトルを読んだ時点で既に「定説が覆るような話ではない」ということがはっきり書かれている…。
Controversial cave discoveries suggest humans reached Americas much earlier than thought
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02190-y
要点を纏めるとこういうこと。
① 人類が北米・南米大陸に最初に到達した年代について、3万年前まで遡る可能性については10年以上前から示唆されていた。
② しかし証拠が薄く、支持していない学者も多い。
・「少なくとも1万5千年前までには到達していた」というのが、多くの学者が合意しているライン。 (=定説)
③ 今回の論文でもおそらく反論が多数出るため結論に至らない。
つまり、「定説」は合意ラインに過ぎず、今回の論文には「覆る」ほどの証拠は含まれていない。
当たり前だが、何か1つの発見があったくらいでいきなり年代を遡らせるなんてことはない。定説というのは、証拠固めや検証をして、多くの専門家が合意することで形成されていくものである。要するに、新聞やWeb記事などによくある「定説を覆す!」とは、単に書いている人の無知を晒しているだけか、事情をよく知らない読者を騙すための釣り見出しだと思っていい。
3万年前うんぬんについては、たとえばこんな記事が2013に出ている。
人類の北米への移住は3万年前?
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8597/
しかしこの時も、遺物が人工物であるかどうかの結論が出ないままになっている。
長年の研究にも拘わらず証拠が薄いままの理由は、主に以下の点になる。
(1) 3万年前のものと考えられる遺物が人工物であるかどうか。
(2) その遺物が本当に3万年前のものといえるか。
(3) (1)と(2)をクリアした上で、たまたま流れ着いた人がいたのではなく「定住」していたと言えるかどうか。
(1)については、今回はクリア出来ていそうである。
しかし問題は(2)のほうで、石器が見つかった地層が3万年前だったからといって、そこから見つかった石器が3万年前のものである根拠にはならない。なぜなら、地層はかく乱されることがあるからである。
時針地殻変動、または構成の人為的な作業など、要因は色々ある。「この石器はxx年頃のもの」といった指標がある場合は、そこから大きく外れた地層から出たものを弾くことが出来る。しかし、まだ何も資料が無い状態からだと、そもそもの地層が正しいのか分からない。データを集めて妥当性を分析していくことになる。
この手続きを怠り、10万年前の地層から出たものは10万年前のものに違いない! と、やらかして大惨事を引き起こしたのが、日本考古学会が世界に誇る戒め「旧石器捏造事件(通称ゴッドハンド事件)」なのだ…。
それゆえに、石器が出て来た地層がたとえ3万年前だったとしても、その地層で本当に正しいのか? ということは、慎重に判断されなければならない。この研究については、今後もデータ集めと検証が続いていくことだろう。その先に、より多くの学者が同意すればもしかしたら「定説」は差し替えられるかもしれない。ただしそれは、劇的な変化というよりは、少しずつ移住年代の合意ラインが下がっていくという方法になるだろうと思う。
結論: まったり見守りましょう。
*****
あと、たとえ権威のある雑誌に載ったとしても、論文は出た時点ではあくまで仮説です。
でもって、論文の体裁が出来ててデータが整ってれば論文は通ります。通ったあと検証するのが同業の専門家の役目っす。
ノーベル賞を受賞された本庶佑氏の「ネイチャー、サイエンスに出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割だ」っていう言葉は、肝に銘じておきたいのです。ほんとそうだから…。このブログで追ってる範囲の10年前の研究とかでも、ほんとにかなり書き換わってるから…。
https://www.buzzfeed.com/jp/keiyoshikawa/honjo-kyoto
人類、3万年前から米大陸に 通説より1.5万年早く
https://www.afpbb.com/articles/-/3295255
今回の3万年うんぬんの元ネタはこのへんなのだと思うが、タイトルを読んだ時点で既に「定説が覆るような話ではない」ということがはっきり書かれている…。
Controversial cave discoveries suggest humans reached Americas much earlier than thought
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02190-y
要点を纏めるとこういうこと。
① 人類が北米・南米大陸に最初に到達した年代について、3万年前まで遡る可能性については10年以上前から示唆されていた。
② しかし証拠が薄く、支持していない学者も多い。
・「少なくとも1万5千年前までには到達していた」というのが、多くの学者が合意しているライン。 (=定説)
③ 今回の論文でもおそらく反論が多数出るため結論に至らない。
つまり、「定説」は合意ラインに過ぎず、今回の論文には「覆る」ほどの証拠は含まれていない。
当たり前だが、何か1つの発見があったくらいでいきなり年代を遡らせるなんてことはない。定説というのは、証拠固めや検証をして、多くの専門家が合意することで形成されていくものである。要するに、新聞やWeb記事などによくある「定説を覆す!」とは、単に書いている人の無知を晒しているだけか、事情をよく知らない読者を騙すための釣り見出しだと思っていい。
3万年前うんぬんについては、たとえばこんな記事が2013に出ている。
人類の北米への移住は3万年前?
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/8597/
しかしこの時も、遺物が人工物であるかどうかの結論が出ないままになっている。
長年の研究にも拘わらず証拠が薄いままの理由は、主に以下の点になる。
(1) 3万年前のものと考えられる遺物が人工物であるかどうか。
(2) その遺物が本当に3万年前のものといえるか。
(3) (1)と(2)をクリアした上で、たまたま流れ着いた人がいたのではなく「定住」していたと言えるかどうか。
(1)については、今回はクリア出来ていそうである。
しかし問題は(2)のほうで、石器が見つかった地層が3万年前だったからといって、そこから見つかった石器が3万年前のものである根拠にはならない。なぜなら、地層はかく乱されることがあるからである。
時針地殻変動、または構成の人為的な作業など、要因は色々ある。「この石器はxx年頃のもの」といった指標がある場合は、そこから大きく外れた地層から出たものを弾くことが出来る。しかし、まだ何も資料が無い状態からだと、そもそもの地層が正しいのか分からない。データを集めて妥当性を分析していくことになる。
この手続きを怠り、10万年前の地層から出たものは10万年前のものに違いない! と、やらかして大惨事を引き起こしたのが、日本考古学会が世界に誇る戒め「旧石器捏造事件(通称ゴッドハンド事件)」なのだ…。
それゆえに、石器が出て来た地層がたとえ3万年前だったとしても、その地層で本当に正しいのか? ということは、慎重に判断されなければならない。この研究については、今後もデータ集めと検証が続いていくことだろう。その先に、より多くの学者が同意すればもしかしたら「定説」は差し替えられるかもしれない。ただしそれは、劇的な変化というよりは、少しずつ移住年代の合意ラインが下がっていくという方法になるだろうと思う。
結論: まったり見守りましょう。
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あと、たとえ権威のある雑誌に載ったとしても、論文は出た時点ではあくまで仮説です。
でもって、論文の体裁が出来ててデータが整ってれば論文は通ります。通ったあと検証するのが同業の専門家の役目っす。
ノーベル賞を受賞された本庶佑氏の「ネイチャー、サイエンスに出ているものの9割は嘘で、10年経ったら残って1割だ」っていう言葉は、肝に銘じておきたいのです。ほんとそうだから…。このブログで追ってる範囲の10年前の研究とかでも、ほんとにかなり書き換わってるから…。
https://www.buzzfeed.com/jp/keiyoshikawa/honjo-kyoto