ドワーフおじさんの剣づくりを愛でる番組「ウルフバート:バイキングの刀剣」

ヴァイキングマニアなら皆知ってる、みんなだいすき「ウルフバート」の剣の番組だよ~!
https://natgeotv.jp/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/2833

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これが何かというと、ヴァイキング時代全盛期の頃に登場する、ウルフバートと銘の入っている超高品質な剣のこと。当時のヨーロッパでは鉄の品質は低かったのに、例外的に高純度で不純物の少ない鋼で作られている。成分として、このくらいの差がある。(色がまだらになっている部分が不純物。これがあると砕けやすくななる)

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製法は謎とされているが、当時はヨーロッパより中東~東地中海あたりの地域のほうが技術的には進んでおり、ダマスカス鋼の製法と似ていることから、素材だけが北欧に持ち込まれた可能性がある。ヴァイキングは手広く交易をしており、インドや中央アジア産の品も遺跡から見つかっている。実際にそこまで行ったわけではないだろうが、黒海沿岸やカスピ海までは到達していたため、その近辺で手に入れていた可能性は大いにある。

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こちら有名なヴァイキングの墓から出て来た仏像。インド産とされる。

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ウルフバートという名前が人名なのか、組織名なのか、地名なのかは分かっていない。200年に渡って作られていたため一人の人間の名前ではなく、ブランド名となっていた可能性はある。また十字架の象嵌がされていることから教会に関連するのではという説もある。キリスト教が布教され始めるのが、ちょうど剣の出現しはじめる8世紀ごろからなので、キリスト教に帰依した鍛冶師がいたのかもしれない。

いずれにしろ、どこでどのようにして造られたかも不明なので、製法を再現することは出来ない。
番組では、イランあたりから鋼を輸入したと想定し、中央アジアの炉で再現実験を試みていた。なので忠実な再現実験ではない…のだが、注目すべきはそこではない。

作っている人が
完全にドワーフ


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いや、ていうか、ドワーフの刀鍛冶って実在したんだ…?!

番組は、科学的な分析とか挟みつつも、このドワーフおじさんの熱い刀剣語りと刀剣メイキングが面白過ぎた。
途中の解説にエルフの賢者っぽい学者さんとか出て来るので色々笑ってしまう。

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「ウルフバート」の銘を象嵌するシーンの緊張や、仕上げまで成功しているか判らないと真面目な顔で語るシーンはこちらも手に汗握る。
そして最後にはドワーフおじさん満面の笑みとともに美しく出来上がった現代のウルフバート、ドワーフ製の剣が登場する。ドワーフおじさんは語る。「これがぼくの仕事、技術を伝えていくことが使命なのだ」と。

昔の人が作っていたウルフバートそのものではないにせよ、人力による鋼精製の技術の頂点を見る、という意味ではオススメできる番組。



あと、曲げられた剣についての解説もちょろっと出てきていた。
ヴァイキング時代の墓から出て来る剣の中には、わざと曲げられているものが多いというもの。これは死後に剣を使えなくするための儀式的なものだとされている。わざわざ火を入れてまげているものもあるそうで、そう…という感じ。

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ヴァイキングの死生観では、墓に入れた剣は死者が死後の世界で使うものと考えられていた。剣を曲げるということは、死んだあと戦えない=復讐しに来ないためだったのだろう、と番組では解説されていた。細かいところは人によって解釈が違い、死者本人が使われないためとすることもあれば、敵に掘り出されて使われないためと考える人もいる。いずれにしろ、この作法は「剣を使えなくする」という方向で説明されることが多い。

しかしウルフバートは大抵、折られていない(おそらく固すぎて簡単には折れなかった)。
死後に使わせないためなのに、本当に優れた剣だと折れないっていうのは面白いよなぁ…と、思った次第。

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