イルカは本当に右利きなのか? そもそも研究の前提から定義を間違えてた可能性も。

最近読んだ話で面白かった話。「イルカにも右利きが多い」という話はインターネット上でググればイヤというほど出てくるが、実は、これは現在では、研究し直さないと結論は出せない話になっている。そもそも「何をもって右ききとするか」の前提が間違えてた可能性があるからだ。

わかりやすく言うと、人間は直立歩行しているが、イルカは腹ばいの状態で生活している。
生活している身体の姿勢が異なるのだから、人間で言う「右利き」の定義をイルカに当てはめようとしても、それはイルカにとっての「右利き」ではない可能性があるのだ。

…言われてみれば、当たり前だなって思うんだけど、今までの研究だとどうもそのあたりの定義づけをきちんとやっていなかったらしい。


日本語記事だとこれ。
https://www.nikkei-science.com/202109_084.html

1268.PNG

そして、「何をもって右利きとするか」という話は、たとえば、「イルカは右回転が多いから右利きだろう」としていた研究では、「そもそもイルカにとっての右回転とは「どっち向きのことを指すのか」という問題に関わってくる。

まず、自分が立った状態での「右回り」とはどういう回転かを考えて欲しい。
大抵の人は、右手を背中側に回す回転を想像すると思う。これが立った状態での「右回り」だ。

stand_naname3_man.png

では次に、うつ伏せになった状態で「垂直に右回り」してほしい。
今度は、大抵の人が右手を下に、つまりお腹側に回す回転を想像する。これが伏せた状態での「右回り」になる。

sleep_side_man_utsubuse.png

つまり人間の脳は、自分が「立っているか」「伏せているか」で「右回り」の意味を変えて認識しているのだ。
そして、イルカは実際には伏せて暮らしているにも関わらず、ふだんは直立歩行して暮らしている人間の基準での「右回り」の概念を当てはめてしまっていた。
要するに、今まで「イルカは右回りをよくするので右利きでしょう」と報告されていた報告書の「右回り」は、実際には「左回り」だった可能性がある。

そして問題は、記述だけにとどまらない。そもそも、イルカにとって「右回り」はどう認識されているのかが分からないからだ。
人間が右回りと認識しているものが、イルカにとっても右回りだとは限らない。


なので現在では、「右回り」のような曖昧になってしまう表現や計測方法ではなく、モノにふれる時に身体のどちら側のヒレをよく使うか、とか、湾を泳ぐ時にどちらに向かって泳ぎ出しやすいか、といった方法を使っているらしい。そして今の所この研究では、特に利き手があるとは言えないそうだ。

今後の研究次第では、「イルカは右利きが多い」はガセビアとなる可能性がある。
少なくとも、今までの研究でイルカの回転方向に言及しているものは、根拠となる回転方向の認識を誤っていた可能性があるので、ソースとしては使えない。


まさかの人間の認知バイアスが研究に反映されてしまっていたというオチ。認知心理学は大事…。

なお、関連しそうな認知心理学の研究として、アルファベットの「p」と「b」を身体に指でなぞって描く場合に、身体の前面や下ろした状態の手の甲などに描くと、正しく認識されなくなる(身体の位置によって上下の認識が異なる)というものがある。これは二人いれば確かめられるので実際にやってみると分かりやすい。

この記事へのトラックバック