古代メソポタミア人が騎乗・牽引に使っていた動物の一部は人為的に混血して作られた種かもしれない、という話
この研究はなかなかおもしろそうだなぁと思ったのでメモ。
古代のメソポタミア人が使っていた四足動物の一部に、人為的な混血種がいた、という話。これがどうこうことかというと、家畜化したロバのメスを荒野に放ち、野生のアジアノロバのオスと交配させる、とか、ロバとオナガーを掛け合わせる、とかいうことだ。
(ちなみに、大衆ウケを狙うメディアとか、とにかく目を惹きたがる研究者は「史上最古の!」というのをやたらと使いたがるけど、別にこれが最古の事例というわけではない。そんなもんは誰も分からない。妥当に表現すると「現在のところ確認されている限りでの」最古の証拠、となる。)
The genetic identity of the earliest human-made hybrid animals, the kungas of Syro-Mesopotamia
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm0218

前提として、メソポタミアにウマが導入されるのは 紀元前2,000年頃。(紀元前3千年紀、とは、紀元前3,000年~2,000年のこと)
エジプトに入ってくるのが紀元前1,500年頃。
それ以前の時代に使われていた牽引動物はオナガーとされている。
ウマが飼育される前から戦車はあったのか。ロバ式荷車からチャリオットに至る紀元前の戦争風景
https://55096962.seesaa.net/article/201404article_31.html
だが、今回の研究によると、遺跡に埋葬されていたのは雌ロバと雄オナガー(正確には絶滅したオナガーの亜種)の交雑種ではないか、というのだ。
骨のDNA分析を使っていて、しかもPCRでの増幅をしているのがなんとも現代的。ただし状態はかなり悪いらしく、主にミトコンドリアDNAでの分析が行われている。ミトコンドリアDNAが母系でしか遺伝しないのはロバなどでも同じなので、少なくとも母系は確定できることになる。
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★前提知識★
ヤギとヒツジ、トラとライオンなどの交雑種は、生きて生まれてはくるものの生殖能力を持たないか、非常に弱い。(染色体数が違う、などの要因による)
ロバとオナガーの場合もそうで、交雑種は人為的に作り出される一世代限りのもの。
ちなみに現在でもインドの一部では趣味的に、家畜ロバの雌を野生のアジアノロバの雄のもとに放って交雑した子「アドベスラ」を得る技術がほそぼそと生き残っている。アドベスラは体格がよく力が強いが、気性が荒くて飼いならしにくいという。ロバがバイクに置き換わっている現代においては、お金持ちが愛好するくらいの用途しかないそうだ。
参考

野生馬を追う 増補版:ウマのフィールド・サイエンス - 木村 李花子
あと牛の交雑種の話とかはこれも

東ヒマラヤ 都市なき豊かさの文明 (環境人間学と地域) - 和雄, 安藤
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…というわけなので、交雑種を得るには毎回交配し続けないといけないのでけっこう手間。
もしも交雑種が、この遺跡に特有のものではなく一般的に出回っていたとするならば、そこまで手間を掛けても得るメリットが、かつてはあった、ということなのだ。
で、今回分析されている動物の骨がハイブリッド動物と分かったことで、メソポタミアの人たちがkunga クアッガ と呼んだ戦争用の動物が、実はハイブリッド動物だったのではないか、というのが今回の話。この動物は、記録によれば一般的なロバの6倍もの値段で取引されていた、という。現代でも、交雑したロバが力強い、気性が荒い、といった点で珍重されていることからしても、これはあり得る話だと思う。
とは言え、今回分析されてる遺跡Tell Umm el-Marra のある場所がシリアなので、メソポタミアでも同じことをやってたのかどうか、或いはシリアから輸入してたのかどうかは検討が必要かなと思う。
また、この骨に動物の名前を書いてあるわけでもないので、これが本当にメソポタミアで「クンガ」と呼ばれた種でいいのかどうかも、まだ推測の域を出ないと思う。もしかしたら、ロバと野生馬を交雑させるような別パターンの交雑種もあったかもしれないし…。今のところは「クンガ(仮)」くらいでいいのでは? と思った。
そしてインドの場合だと、野生ロバと家畜ロバを交雑させる場所は雨季の湿原、つまり周囲が水で囲まれて一時的に天然の障害ができて逃げられなくなった土地だったはずなのも気になった。普通に家畜のロバを原っぱに放っても、そう簡単に交雑はしない。シリアの平原地帯、あるいはその周辺で、うまくロバが逃げないよう囲いこめる広い土地はどこにあったのだろうか。交尾させる時だけわざわざオスロバを捕まえにいったのだろうか…。
交雑種の動物がシリアで生産され、メソポタミアに輸入されていた可能性はあると思うし、だとすれば輸入ものかつ希少な動物なので高価になるのも判るなとは思うものの、これだけだとあまり断定もできない。
ひとまず今の段階だと、「紀元前3千年紀のシリアではロバの雑種が人為的に作られていた」という感じだろうか。
個人的にはインダス文明の交雑技術のほうが古かったのでは? と思っているので、この技術がインドから伝播した説も検討してみたい。
*なんでインダスのほうが古かったかと思うかというと、先に述べたように自然現象によって偶発的に交雑種が誕生する可能性があるから。
*また東インドやヒマラヤ東部にはウシの交雑種を作り出す洗練された技術が継承されており、バリエーション的に豊富だから。
*なので尚更、この事例は単純に、「たまたま遺跡として残ってた事例」であって、歴史上はもっと古く、別の地域でも交雑は行われていたのではないかと思っている
古代のメソポタミア人が使っていた四足動物の一部に、人為的な混血種がいた、という話。これがどうこうことかというと、家畜化したロバのメスを荒野に放ち、野生のアジアノロバのオスと交配させる、とか、ロバとオナガーを掛け合わせる、とかいうことだ。
(ちなみに、大衆ウケを狙うメディアとか、とにかく目を惹きたがる研究者は「史上最古の!」というのをやたらと使いたがるけど、別にこれが最古の事例というわけではない。そんなもんは誰も分からない。妥当に表現すると「現在のところ確認されている限りでの」最古の証拠、となる。)
The genetic identity of the earliest human-made hybrid animals, the kungas of Syro-Mesopotamia
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm0218
前提として、メソポタミアにウマが導入されるのは 紀元前2,000年頃。(紀元前3千年紀、とは、紀元前3,000年~2,000年のこと)
エジプトに入ってくるのが紀元前1,500年頃。
それ以前の時代に使われていた牽引動物はオナガーとされている。
ウマが飼育される前から戦車はあったのか。ロバ式荷車からチャリオットに至る紀元前の戦争風景
https://55096962.seesaa.net/article/201404article_31.html
だが、今回の研究によると、遺跡に埋葬されていたのは雌ロバと雄オナガー(正確には絶滅したオナガーの亜種)の交雑種ではないか、というのだ。
骨のDNA分析を使っていて、しかもPCRでの増幅をしているのがなんとも現代的。ただし状態はかなり悪いらしく、主にミトコンドリアDNAでの分析が行われている。ミトコンドリアDNAが母系でしか遺伝しないのはロバなどでも同じなので、少なくとも母系は確定できることになる。
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★前提知識★
ヤギとヒツジ、トラとライオンなどの交雑種は、生きて生まれてはくるものの生殖能力を持たないか、非常に弱い。(染色体数が違う、などの要因による)
ロバとオナガーの場合もそうで、交雑種は人為的に作り出される一世代限りのもの。
ちなみに現在でもインドの一部では趣味的に、家畜ロバの雌を野生のアジアノロバの雄のもとに放って交雑した子「アドベスラ」を得る技術がほそぼそと生き残っている。アドベスラは体格がよく力が強いが、気性が荒くて飼いならしにくいという。ロバがバイクに置き換わっている現代においては、お金持ちが愛好するくらいの用途しかないそうだ。
参考

野生馬を追う 増補版:ウマのフィールド・サイエンス - 木村 李花子
あと牛の交雑種の話とかはこれも

東ヒマラヤ 都市なき豊かさの文明 (環境人間学と地域) - 和雄, 安藤
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…というわけなので、交雑種を得るには毎回交配し続けないといけないのでけっこう手間。
もしも交雑種が、この遺跡に特有のものではなく一般的に出回っていたとするならば、そこまで手間を掛けても得るメリットが、かつてはあった、ということなのだ。
で、今回分析されている動物の骨がハイブリッド動物と分かったことで、メソポタミアの人たちがkunga クアッガ と呼んだ戦争用の動物が、実はハイブリッド動物だったのではないか、というのが今回の話。この動物は、記録によれば一般的なロバの6倍もの値段で取引されていた、という。現代でも、交雑したロバが力強い、気性が荒い、といった点で珍重されていることからしても、これはあり得る話だと思う。
とは言え、今回分析されてる遺跡Tell Umm el-Marra のある場所がシリアなので、メソポタミアでも同じことをやってたのかどうか、或いはシリアから輸入してたのかどうかは検討が必要かなと思う。
また、この骨に動物の名前を書いてあるわけでもないので、これが本当にメソポタミアで「クンガ」と呼ばれた種でいいのかどうかも、まだ推測の域を出ないと思う。もしかしたら、ロバと野生馬を交雑させるような別パターンの交雑種もあったかもしれないし…。今のところは「クンガ(仮)」くらいでいいのでは? と思った。
そしてインドの場合だと、野生ロバと家畜ロバを交雑させる場所は雨季の湿原、つまり周囲が水で囲まれて一時的に天然の障害ができて逃げられなくなった土地だったはずなのも気になった。普通に家畜のロバを原っぱに放っても、そう簡単に交雑はしない。シリアの平原地帯、あるいはその周辺で、うまくロバが逃げないよう囲いこめる広い土地はどこにあったのだろうか。交尾させる時だけわざわざオスロバを捕まえにいったのだろうか…。
交雑種の動物がシリアで生産され、メソポタミアに輸入されていた可能性はあると思うし、だとすれば輸入ものかつ希少な動物なので高価になるのも判るなとは思うものの、これだけだとあまり断定もできない。
ひとまず今の段階だと、「紀元前3千年紀のシリアではロバの雑種が人為的に作られていた」という感じだろうか。
個人的にはインダス文明の交雑技術のほうが古かったのでは? と思っているので、この技術がインドから伝播した説も検討してみたい。
*なんでインダスのほうが古かったかと思うかというと、先に述べたように自然現象によって偶発的に交雑種が誕生する可能性があるから。
*また東インドやヒマラヤ東部にはウシの交雑種を作り出す洗練された技術が継承されており、バリエーション的に豊富だから。
*なので尚更、この事例は単純に、「たまたま遺跡として残ってた事例」であって、歴史上はもっと古く、別の地域でも交雑は行われていたのではないかと思っている