懐かしのノリのトンデモ本「古代世界の超技術」

レーベルはブルーバックスというまともなところだが、工学博士(物理専門)が旅行でハマった古代文明について全く知識がないまま憶測であれこれ断定していくという、とんでもなく香ばしいスタンスの本である。このノリは90年代後半あたりに流行った「トンデモ本」だと思う。

ぶっちゃけ人文学としての知見は一ミリも得られないし、まともに読むと疲れると思うが、「令和に蘇ったトンデモ本」とか「学位のある頭のいい人でも基礎知識がないと明後日の方向に暴走するいい見本」みたいなカンジで眺める分には、いいサンプルだと思う。
いや、ていうか、いまのググれば何でもでてくるご時世に、このノリの思い込みで突っ走った本が出ているとは思わなかったので、色んな意味で驚いた。

古代世界の超技術 あっと驚く「巨石文明」の智慧 (ブルーバックス) - 志村史夫
古代世界の超技術 あっと驚く「巨石文明」の智慧 (ブルーバックス) - 志村史夫

まずどのへんがやべーのか、という話だが、とにかく基本情報を何も把握しないまま思い込みで突っ走っている。
たぶん自分では把握しているつもりなのだろうし、実際、断片的な情報としては最新のところまで行き着いているのだが、根本的な部分があまりにも足りない。

たとえば、「ヘロドトスがピラミッドを見に行った時にスフィンクスの話を書いていない」。これは確かにそうだ。
しかし、そこから何故か「ということはヘロドトスが見に行くまでスフィンクスは無かったに違いない」と飛躍する。そうくるかー???! いや、じゃあ何でスフィンクスの足元にトトメス三世が建てた碑文が残っているのか、っていう…。あと、スフィンクス作る時に周りから伐りだした岩を河岸神殿の建設に使ってるから、ピラミッドと同時代なのは動かせないぞ。

たぶん専門家まで聞きに行かなくても、ちょっと詳しい近くの人に聞いてれば分かったと思う。専門家は何も分かっていない! とトンデモ本の著者にお約束な勝手な空想で吹き上がっているが、石の加工手段や運搬方法にしか注目せず、当時の物流や動かせた人数、社会的背景を一切考慮できてない程度で「専門家はこんなことも分からないのか」とかドヤ顔するのは、さすがに井の中の蛙が過ぎるのでは。

あと「当時の人は滑車くらい使えたはずだ」のような、空想だけならいくらでも言えるよね…という感じの意見が多すぎる。
トンデモでいくにしても、もうちょっとヒネリが欲しい。そもそもピラミッド建設に滑車が使われたなら、おそらく石材で作るだろうし、せめて一つくらいは残骸が発見されないとおかしいだろう。「そのくらい思いつくはずだ」と言うかもしれないが、その道具を作るための工数が、道具を使うことによって削減される工数を大幅に下回るのでなければ、採用はされない。
手作業で真円の滑車作るのに、どれだけの手間がかかるのか。それに結びつけるロープや、滑車を使うための台座を組むための木材を切り出して運ぶ手間なども含めてだ。
そんなもの準備してるより、人海戦術で石運んだほうが早いよ…。特別な道具も前準備もいらないんだから。
考古学者は石材を加工する職人の話も聞いていない、と熱弁しながら、結局はご自分も、実際の現場を考えていないから机上の空論にしかなってない、というブーメラン突き刺さり状態になってしまっている。


と、いう感じで、本当に、一昔前のトンデモ本か、素人の個人サイトでよくあった系の懐かしいノリ。


ピラミッドの形をシリコンの表面に作られる逆ピラミッド型の構造に対比するあたりは微笑ましいが、「…で?」だし、お約束のように「ピラミッド5000年の嘘」や、Nスペで放映されていた「内部傾斜路説」、吉村作治の「ピラミッドは墓ではない!」説に引っかかっているテレビやバラエティチャンネルで流れている内容しか知らない素人くささが何とも言えない。

外部からインプットされた情報をまず疑い、立証するためには何が必要なのか考える、というプロセスは、人文学だろうが物理学だろうが、科学で思考する世界においては同じである。
批判的な思考による検証が根本的に出来ていないといると、本業でも同じ失敗はやってる可能性があると思われるが、大丈夫なんだろうか。


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なおブルーバックスは科学ジャンルに強いレーベルだが、人文学はめっぽう弱いという特徴があり、こちらもギリッギリのところで踏みとどまっているが一部に怪しい記述があった本。内容自体はけっこう面白かったんだけど…。知らないジャンルは、そのジャンルの監修者つけたほうがいいぞ。あと理系の博士、文系の博士を下に見る風習が強すぎてちょっとな。うちの親もそうだけど。

王家の遺伝子 DNAが解き明かした世界史の謎 (ブルーバックス) - 石浦 章一
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