古代地中海世界で津波の影響はどのくらい? 過大評価の可能性が示唆される

地中海世界、特に東地中海は、断層が集まっており、火山も多い。近年でも2020年に起きた地震でトルコやギリシャに津波が押し寄せた報道があったが、そうした状況は古代にもあっただろうと言われている。というか、エジプト・アレキサンドリアの大灯台が地震で崩壊した記録のように、津波を引き起こす原因となりそうな大地震はおよそ千年に一度くらいは起きていただろう、とされている。

ただし、今回の研究は、今まで津波の痕跡として報告されてきた内容の大半は実は季節嵐(気象津波/meteotsunami)によるもので、地震が引き起こす津波ではなく、気候変動に伴うイベントによるものでは? という話である。

Tsunamis in the geological record: Making waves with a cautionary tale from the Mediterranean
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.1700485

今回の研究では、過去に津波による浸水の痕跡とされてきた、過去4500年間、8カ国にわたる135件の地点を再評価している。
まず、津波とされてきた痕跡が集中するのが約200年前、1600年前、3100年前の3回で、気候の寒冷化が起きていたことと重なる時期なのだという。つまり気候変動による大規模な嵐の発生が引き起こした水害の可能性があるわけだ。そしてなんと、この調査地点のうち最大90%までは、津波ではなく別の原因での浸水の可能性がある、という。

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これはなかなかに大きな数字だが、「堆積物の状況からだけでは原因がわからない」という事実を見ると、なるほど、と思う。
かつては、津波の波は周波が長く、内陸まで届くものなので、当時の海水面より遥かに奥地まで水が届いた痕跡があるなら津波の可能性が高い、とされてきた。しかし実は気象嵐でも同じような痕跡は出来、しかも津波と堆積物の状態があまり変わらないことがあるのだという。

つまりは、短時間で水没したと思しき遺跡や、津波が疑われる堆積物を含む地層があったとしても、地震とは関係なく、大規模な嵐によって引き起こされる異常な高潮など別の原因を考慮しておく必要がある、ということ。

というか、地中海世界の津波現象に周期らしきものがあるという研究は以前にも出たことがあって、その時は「まぁ千年に一度クラスの大地震とかあるくらいだし…」という感じであんまり深く考えてなかったんだけど、確かに広い範囲に散らばってる痕跡のほとんどが近い時代に集中するのは、地震が原因だとするとちょっとおかしい。気象変動が原因の津波って言われたほうが納得する。

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ただ、この研究が真実だとすると、たとえば、このへんの研究とかどうなるんだろう…という心配が。

イスラエル海岸線から古代の大津波の痕跡が見つかる。もしかして湾岸の遺跡は津波で一掃されたかも?
https://55096962.seesaa.net/article/202012article_22.html

これも、別に地震による津波が原因じゃなくても、現象に説明がついてしまう。気候変動で低地がしょっちゅう水没するか、季節によって潮をかぶるようになったとかなら、周辺遺跡まとめて人が住まなくなることはあり得る。

この研究は、時期的に9,910年~9,290年前と古いため、今回の1500年周期から外れている可能性はあるが、にしても、どれが「地震による津波」で、どれが「気象による津波」なのかの区別をつけるのは難しそう。考古学者に地質学者に気象学者、いろんなジャンルの学者集めて相談するしかないな。再精査大変そう…。学者のみなさん頑張っ…て…。

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