地球化学×考古学 焼かれた土壌を使って年代測定は可能なのか
「地磁気考古学(Archaeomagnetic )」という聞き慣れない言葉がある。日本語でググってもほとんど資料が出てこないので、とりあえず自分でまとめておくことにした。
ちなみに英語版のWikipediaには項目があったので、面倒な人はそっちを読んでもらったほうがいいかもしれない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Archaeomagnetic_dating
この技術を理解する前に、前提となる知識が2つある。
・磁気を帯びる物体をキュリー温度以上に熱すると記録された磁場情報が初期化され、再び冷えた時にその時代/場所の磁場を獲得する。
この「キュリー温度」というのは物質ごとに多少違うらしいのだが、だいたい400℃以上。
熱残留磁化という言葉を調べると分かりやすいかと思うが、特別な鉱物でなくても砂の中に含まれる鉄などはもともと磁気を持っていて、その方向が加熱→冷却のプロセスを経ることで一定方向に固定化される。磁気なので、当然、北と南を指すように方向が揃うことになる。
・地球の磁場は場所によって/時代によって変動する
正確には、磁石の指す「北」が少しずつズレる。
地球の磁場は強まったり弱まったり、たまに逆転したりと、ちょいちょい動いている。しかも場所によって偏角が変わる。
なので、物体に記録された偏角を調べることで、その物体が「いつ」冷却されたのかがだいたい判る。
*図の出典元はすべて「地磁気逆転とチバニアン」ブルーバックス


というわけで、土器や竈など、高温で熱されたことのある遺跡・遺物があれば、そこに記録された磁気の方向を調べることで年代特定ができそうだ、という話だ。
基本的なメカニズムなどは、紹介した図の出典元以外に、英語資料だといくつか転がってた。
What does archaeomagnetism date?
https://www.bradford.ac.uk/archaeomagnetism/archaeomagnetic-dating/what-does-it-date/
ただし土器が破片になってしまっている場合などは、元の形状を推測して角度を見ることになるので厄介かもしれない。
使うなら、竈のような動かない遺跡のほうがいい気がする。
日本では現状、あまり使われていない手法のようだが、おそらく今の所データが少なくて偏角と伏角の基準が揃っていないのと、使える遺跡が少ないんだと思う。
人類学・考古学のための磁気年代学1)-日本におけるその現状展望
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqua1957/6/4/6_4_230/_pdf
火山国なので、冷えたマグマを使えば時代ごとの磁場の傾きは出せる。
しかし肝心の遺跡の残りが悪い…。炉なんかちゃんと残ってるとこ少ないだろうし。あと有機物が多い国なので、放射性炭素年代測定を使えば年代はだいたい出せてしまう。
使ってる事例を探してみると、放射性炭素年代測定が不正確な地域で、出た結果が正しいかどうか確認するために補佐的に採用されていたりするようだ。
Refining the archaeomagnetic dating curve for the Near East: new intensity data from Bronze Age ceramics at Tell Mozan, Syria
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0305440314003951

たぶん、この手法単体で年代特定を行うことはほぼ無くて、他の年代特定の手法と組み合わせて答えが一致するかを見るのが妥当な使い方なのかな、と思った。そもそも、時代ごとの磁場の傾きのデータが無いと比較も出来ないし。
ただしもうひとつ、もっと長いスパンで「古地磁気」、古い時代の磁場の強さを測定し、岩石に記録された磁場の強度に応じて年代を推定するという手法もあるようで、こちらは場所が移動していても有効となる。ただし扱う時間軸が長めなので、数千年単位で「ここ最近」の遺物には使いづらいかもしれない。
高精度年代対比ツールとしての古地磁気強度層序
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/117/1/117_1_1/_pdf
いずれにしても、自分はあまり見かけたことのない手法で、こういうのも出来るのか~という感じの話であった。
応用次第では、年代特定の難しい遺物の正体を突き止めるなどに使えそうなので、異分野コラボで何か面白い研究が出てくるといいな。
ちなみに英語版のWikipediaには項目があったので、面倒な人はそっちを読んでもらったほうがいいかもしれない。
https://en.wikipedia.org/wiki/Archaeomagnetic_dating
この技術を理解する前に、前提となる知識が2つある。
・磁気を帯びる物体をキュリー温度以上に熱すると記録された磁場情報が初期化され、再び冷えた時にその時代/場所の磁場を獲得する。
この「キュリー温度」というのは物質ごとに多少違うらしいのだが、だいたい400℃以上。
熱残留磁化という言葉を調べると分かりやすいかと思うが、特別な鉱物でなくても砂の中に含まれる鉄などはもともと磁気を持っていて、その方向が加熱→冷却のプロセスを経ることで一定方向に固定化される。磁気なので、当然、北と南を指すように方向が揃うことになる。
・地球の磁場は場所によって/時代によって変動する
正確には、磁石の指す「北」が少しずつズレる。
地球の磁場は強まったり弱まったり、たまに逆転したりと、ちょいちょい動いている。しかも場所によって偏角が変わる。
なので、物体に記録された偏角を調べることで、その物体が「いつ」冷却されたのかがだいたい判る。



というわけで、土器や竈など、高温で熱されたことのある遺跡・遺物があれば、そこに記録された磁気の方向を調べることで年代特定ができそうだ、という話だ。
基本的なメカニズムなどは、紹介した図の出典元以外に、英語資料だといくつか転がってた。
What does archaeomagnetism date?
https://www.bradford.ac.uk/archaeomagnetism/archaeomagnetic-dating/what-does-it-date/
ただし土器が破片になってしまっている場合などは、元の形状を推測して角度を見ることになるので厄介かもしれない。
使うなら、竈のような動かない遺跡のほうがいい気がする。
日本では現状、あまり使われていない手法のようだが、おそらく今の所データが少なくて偏角と伏角の基準が揃っていないのと、使える遺跡が少ないんだと思う。
人類学・考古学のための磁気年代学1)-日本におけるその現状展望
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaqua1957/6/4/6_4_230/_pdf
火山国なので、冷えたマグマを使えば時代ごとの磁場の傾きは出せる。
しかし肝心の遺跡の残りが悪い…。炉なんかちゃんと残ってるとこ少ないだろうし。あと有機物が多い国なので、放射性炭素年代測定を使えば年代はだいたい出せてしまう。
使ってる事例を探してみると、放射性炭素年代測定が不正確な地域で、出た結果が正しいかどうか確認するために補佐的に採用されていたりするようだ。
Refining the archaeomagnetic dating curve for the Near East: new intensity data from Bronze Age ceramics at Tell Mozan, Syria
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0305440314003951

たぶん、この手法単体で年代特定を行うことはほぼ無くて、他の年代特定の手法と組み合わせて答えが一致するかを見るのが妥当な使い方なのかな、と思った。そもそも、時代ごとの磁場の傾きのデータが無いと比較も出来ないし。
ただしもうひとつ、もっと長いスパンで「古地磁気」、古い時代の磁場の強さを測定し、岩石に記録された磁場の強度に応じて年代を推定するという手法もあるようで、こちらは場所が移動していても有効となる。ただし扱う時間軸が長めなので、数千年単位で「ここ最近」の遺物には使いづらいかもしれない。
高精度年代対比ツールとしての古地磁気強度層序
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosoc/117/1/117_1_1/_pdf
いずれにしても、自分はあまり見かけたことのない手法で、こういうのも出来るのか~という感じの話であった。
応用次第では、年代特定の難しい遺物の正体を突き止めるなどに使えそうなので、異分野コラボで何か面白い研究が出てくるといいな。