消えない植民地支配の傷と現実「ハイチの栄光と苦難」

ブードゥー教についてちょっと調べてみよう~みたいな感じで図書館の本を適当にゴッソリ借りて読んでたら、期待してたのとは違うけどなかなかおもしろい本があった。

ハイチの栄光と苦難―世界初の黒人共和国の行方 (世界史の鏡 地域) - 浜 忠雄
ハイチの栄光と苦難―世界初の黒人共和国の行方 (世界史の鏡 地域) - 浜 忠雄

場所ココ。キューバとプエルトリコの間で、大航海時代にはフランス植民地。
大航海時代プレイヤーにはお馴染みの場所だと思うが、そうじゃない人はあまりピンと来ないかもしれない。

ここは、カリブで最初の独立国家であり、最初の黒人国家だという。また植民地支配から自力で脱却しようとした、奴隷たちの蜂起によって自由を勝ち取った、という栄光の歴史を持つ。しかし現在は世界最貧国であり、その状態から脱却できる兆しがない、という苦難の中にある。
どうしてそうなったのか…というのを、独立前後から歴史のあらすじをおおまかに説明してくれている本だ。

カリブの他の国と同じく、ハイチは、植民地支配された時点で元の住民は全滅させられている。
そのため、現在住んでいるのはアフリカから奴隷として連れてこられた人々や、奴隷だった人々と支配者との間の混血で生まれた人々。純粋な先住民はもはやおらず、もしかしたら一部に混血した人がいるかも。程度。

なので、フランス植民地になる以前の歴史が無いのだ。
ここ数百年の話から始まる。奴隷たちが連れてこられ、フランスの富のためにプランテーションに縛り付けられるが、蜂起によって独立を勝ち取る。しかしアメリカも、他のヨーロッパの国も奴隷制をまだ保持しているので、その時点では誰も「国」とは認めてくれない。

仕方なく、ハイチは元の宗主国だったフランスの要求、莫大な賠償金の支払いと、港の優先利用という条件を承諾して、フランスから「国」と承認してもらうことにする。この莫大な賠償金のために借金までしたことは、その後もハイチにとって大きな負債となってしまった。

また、元々がプランテーションのモノカルチャーで、工業などが全く育っていない状態だったことも良くなかった。
プランテーション崩壊後は産業が無い。農業しようにも元々農業向きの土地が少ない。
昔からその土地に暮らしていた先住民なら持っていたはずの、その土地で暮らしていくナレッジが、アフリカからやって来た人々の子孫たちには無かったのである。

このナレッジというのは、たとえば、言い伝えで「xxの時には海に出てはいけない」のようなものがあったり、「xx山に霧がかかる時は天気が崩れる」みたいな口伝があったりするような部分だ。そこに昔から住んでいる人が何となくカンで判ってる「土地との付き合い方」みたいなものは、案外ばかに出来ない。
ナレッジなしにプランテーション時代の感覚で土地を切り開いたせいで景観や自然のバランスが失われ、荒廃してしまったのが現在のハイチ。そのためにハリケーンにも極端に弱く、農業の生産性も低い、という。

また、敢えて「独立」という道を選んだことで、その後の元宗主国からの援助が限定的となり、発展の道が閉ざされたというのも、なるほどと思ってしまった。
「独立」せずに、宗主国を頂いたまま支援を受け続ける道もあったのだ。…というか、南米にいまだ残っている「フランス領」とか「イギリス領」とかの意味がようやく理解できた。あそこの人々は、独立「できなかった」のではない。独立「しなかった」だったのだ。

フランス領ギアナが周辺地よりGDP高めで豊かな生活らしい、というのは南米ウロウロしてた時にうっすら聞いてたけど…。
そういう…ことか…。


栄光ある独立と、その後の破滅。
ハイチの苦難を見て、周辺の国々も、完全な独立を迷ったはずだ。ヒモ生活のほうが圧倒的に楽だからだ。理想は高く掲げられた。しかし人々の実際の生活は今も地を這いながら明日を模索している。
あと、ヨーロッパ諸国からしても、自国である以上は海外県の面倒見ないといけないと考えると、あまりメリットのない元植民地はお荷物になりかねないんだろうなぁ。


植民地支配の時代は、遠く過ぎ去ったように見えて実はまだ精算の終わっていない過去の一つなんだな…と、しみじみと思った。
これもまた、大航海時代の闇の一つ。

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