高山植物の知られざる経歴、最近の植物DNA分析すごいなって話

高山植物の経歴といえば、一般的には寒冷な時期に北から日本に侵入し、温暖化すると消えて高地にしか残らなかった、という考え方が一般的である。特に日本はそうで、多くの高山植物、そしてライチョウのような高地特有の生き物が、「氷期の生き残り」と説明されている。

だが最近の研究で、実際には、そんな単純な話では無いことが分かってきているらしい。

・複数回の氷期に分けて日本に入ってきたので、地域ごとに種類がちょっと違う種
・低地で他の植物との競争に負けて、競争率の低い高地に上がっていった独自進化種
・日本に入ってきたのではなく、逆に日本から氷期に北上して拡散していった種

などのパターンがあるようなのだ。

中でも、「北米にある高山植物が実は日本から拡散していったもの」という研究は、そんなのあるんだ?! という感じで驚きだった。

高山植物は北方起源だけではなかった!?日本列島から北米へと分布を広げた高山植物を世界で初めて発見
https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id731.html

PDF
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r2/press20200709.pdf

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研究者コメントで「日本産高山植物の起源は当たり前のように北方起源といわれていますが、実はまだちゃんと分かっていないことを痛感しました。」とあるが、うん、そうだよね。当たり前のように寒い時期に北から南下してきた植物の生き残りだと思ってたよね。まさか日本原産で寒くなった時期に北上していく種があると思わないじゃん。でも確かに、可能性としては存在してもおかしくない。
当たり前だと思っていた見方が、実は思い込みで固められていたと気付かされる瞬間である。

また、コマクサのDNAの研究では、二度の氷期に分けて日本に入ってきたコマクサが、間氷期(温かい時期)でも生き残っていた、ということが分かって来ているという。つまり寒冷な気候にしか適応してないように見せかけて、気温が上がってもそこそこ対応できるということだ。

100年の時を超えて知る、コマクサの進化史。
https://www.shinshu-u.ac.jp/research/highlight/2020/12/100.html

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これもなかなかに興味深い。温暖化が進めば高山植物は絶滅するのでは、と悲観的な見方をされることが多いけど、実は対応できる気温の幅は種によって違ってて、気温が上がっても生き残れる種類がいる…? もと高山植物なのに低地に降りてくる種もあるというから、案外そういう種類はあるのかもしれない。

そういえば、ギアナ高地に行ったときも、高地特有の植物の一部がふもとの川べりとかに生えていたのだった。
なんだ、別に高地じゃないと生存できないわけじゃないんだ…と、思ったものだが、もしかしたら、いつかはあの高地から降りてきた種が別の亜種に進化するのかもしれない。

知っているようで実は何も分かっていなかった、日本の高山植物たちのユニークな経歴書。
これからの研究が楽しみである。

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