ヴァイキングがグリーンランドを放棄した理由は、寒冷化より干ばつだったかもしれない

ちょっと面白そうな研究を見つけた。アイスランドからグリーンランドへ移住した人々が、入植地を諦めて去った直接原因は何だったのか、という話しである。

当時、気候変動が起きていて、温暖化の時代が急速に終了しようとしていたことは分かっている。
寒冷化すればグリーンランドに住み続けることが難しくなったのは確実である。しかし今回の研究では、実際は、住民たちは気候変動によって起きた干ばつによって、寒冷化しきるより早く見切りをつけていたのでは? ということが示唆されている。

記事

Rewriting The History Books: Why The Vikings Left Greenland
https://archaeologynewsnetwork.blogspot.com/2022/03/rewriting-history-books-why-vikings.html

(書き換えっていうほど書き換わってはない気がするんだが…まぁ記事タイトルはだいたい誇張するものなので)

元論文

Prolonged drying trend coincident with the demise of Norse settlement in southern Greenland
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm4346

まず、グリーンランドへの入植の概要は以下の記事を参照。
10世紀に入植し、14世紀から寒冷化が始まり、15世紀には入植地を放棄した。というのが既存説となっている。しかし今回は、「そこまで劇的な寒冷化は起きていないのでは」という話になる。

グリーンランドに移住したヴァイキングたちの その後
https://55096962.seesaa.net/article/201106article_2.html

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分析の仕方は、北欧人の入植した場所の近くにあった湖の固定に溜まった堆積物から、当時の気候を再現しようというものである。同じ手法は世界各地の湖でも行われている。ちなみに、放射性炭素年代測定の世界標準となる堆積物を持つのは、日本の水月湖である。以下の記事を参照。

地球は過酷な場所だった。「人類と気候の10万年史」
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_9.html


今回の分析では、「 Lake 578」と名付けられた入植地近くの湖の堆積物の検証から、むしろ14世紀はまだ温暖だった可能性が示唆されている。対して夏場の乾燥化が急速に進んでいたこと、つまり家畜に食べさせる牧草が少なく、冬の備えとなる干し草も十分に蓄えられなかったかもしれない。

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北欧人はあまり漁労では食料を得ず、農場経営が基本だった。その農場に大ダメージとなると、確かに入植地が放棄される理由にはなり得る。
というか、今まで各種の本に「寒冷化が原因」というのは書かれていたけれど、実際に気温が低下したかまで裏をとってる試料は確かに見たことが無かったな…。
かつては広範囲な地域視点でしか再現出来なかった過去の気候変動が、ピンポイントな狭い地域単位で再現出来るようになってきたのは、ここ最近のこと。これもまた、科学の発展がもたらした新たな歴史視点の一つだ。


あと面白いなと思ったのは、 The North Atlantic Oscillation (NAO) =北大西洋振動 という気象現象についての記述。
日本に住んでるとエルニーニョの話をよく聞くと思うが、それと似た感じで、NAOは北アメリカ西部(グリーンランド地域も含む)の気候に影響をもたらすものらしい。

このNAOの動きによってグリーンランド南部が極端に乾燥化していったのでは、というのは、あーなるほど…という感じだった。
(NAOの記録自体は最近のものしかないが、過去に同じ動きが起きていたなら乾燥化は進んだだろう、と。)

変動範囲内にグリーンランドだけでなく、入植者の本拠地だったアイスランドも含まれているので、本国からの支援も望めなくなっていったのが複合原因の一つになるのかもしれない。

sciadv.abm4346-f3.jpg

考古学からでは限定的にしか再現出来ない歴史が、別の視点から再現されていくのはとてもおもしろい。
こういう科学分野のクロスオーバーは今後も増えていくのだろうな。

#ただし、資料探すのは大変,,

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