イギリス考古学会の遺物捏造事件、ピルトダウン人の正体(材料)はオランウータンだった

ピルトダウン人とは、20世紀イギリスで発生した考古学異物の捏造事件の象徴だ。もっと言うと人類の古い祖先である猿人の化石を人の手で作り出してしまったという事件である。
日本でいう旧石器捏造事件とと比較されることが多いが、日本に閉じたガラパゴス時間軸だったあれとは違い、こちらは人類史に関わる発見だったために数十年にわたって学会を翻弄し続けた。

そのピルトダウン人だが、近年になってからDNAでの鑑定が行われていたというので、ちょっと資料を探しに行ってきた。こちらがその論文だ。

New genetic and morphological evidence suggests a single hoaxer created ‘Piltdown man’
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.160328

何百万年も古いものなら、当然、そう簡単にDNAの抽出など出来ない。
しかし使われていたのがそんなに古くない骨ばかりだったので、わりとあっさり正体が割れていた。

この骨は、類人猿を作り出すために人間とオランウータンの骨が組み合わされている。
オランウータン部分については、歯の軽乗ゲノムから、インドネシアに住むボルネオオランウータンというところまで分かっている。なるほど、ここまで特定できるのか…という感じ。
なお、この骨の持ち主がどこかの動物園にいたものか、ペットとして輸入されていたか、剥製などにして持ちこまれたのかの由来は分かっていない。

rsos160328f04.jpg

ヒトの骨の部分についてはDNAの抽出は出来ておらず、来歴は不明だ。ただし、おそらく中世のもの(そんなに古くはない)で、頭蓋骨が分厚く、古代人っぽく見えることから選ばれたのだろう、とのこと。少なくとも2人ぶん、場合によってはそれ以上の人数のものが組み合わされている。また、作り方からして、ピルトダウン人の”制作”には、おそらく一人の人物しか関わっていないだろう。とのこと。

現代科学、あっという間にこういうの暴けるんだよなー凄いな。という感じである。
100年前は疑われもせず、これでまかりとおってたからね…。


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なお、似た研究で、さいきん日本では「人魚のミイラの分析」というのをやっている。
こちらは贋作ではなく、どちらかというと信仰対象というか呪物みたいな扱いを受けている品なのだが、知られざる来歴が明らかになることを楽しみにしている。
科学分析でロマンが失われる、なんて浅はかなことを言う人も最近では見かけないが、分析によってわかったことから新たなストーリーが生まれてくるものこそ、真のロマンある遺物なのではないかと思うのだ。
(その意味では、偽物だったピルトダウン人も、"ロマン"はあるのかもしれない。)

円珠院所蔵の「人魚のミイラ」、科学分析の結果は9月ごろ発表。
https://55096962.seesaa.net/article/202203article_8.html

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