人類の起源と古人類学の常識の転換期:現在何が問題になってるかということ

最近出た古人類学の本を読んでいたのだが、「今までの常識は変わろうとしている!!!(ドーン)」みたいな書き方してるわりに意味がわかりづれぇなこれ…ってなってイマイチだったので、もう面倒くさいので自分で要点だけまとめておくことにした。
初心者にあの書き方じゃわからんわ。

まず、ここ最近になって、ヒトという種族の起源や、別系統のヒト(ネアンデルタールなど)との関係がかなり大きく書き換わっているのは周知のとおりである。ネアンデルタールやデニソワ人といった別種のヒトとの混血が判明し、さらに、知られざるヒト(ホモ・ナレディ)が見つかったり、今までホモ・ハイデルベルゲンシスという名前で呼ばれていたヒト種が種族名として妥当ではないのでは、といった議論も出てきている。

いくつか最近書いた記事をリンクしておくが、まぁなんていうか色んなところで説の書き換えが起きていて、「出アフリカ」部分だけでもかなりの変更店がある。つまりは、少し前に出た「人類史」のような本はあまり参考にならない。

人類の系統樹にまた一つ名前が増えた。ホモ・ボドエンシス登場にまつわるあれこれ
https://55096962.seesaa.net/article/202111article_20.html

「ホビット」と呼ばれる小型ホモ属の進化に新たな観点/現生人類との交雑と小型化への道
https://55096962.seesaa.net/article/201808article_13.html

ギリシャで見つかった21万年のホモ・サピエンス、人類の拡散史は書き換わるのか
https://55096962.seesaa.net/article/201907article_16.html

現代アフリカ人にまじるネアンデルタール人のDNAはヨーロッパ由来。という研究結果が出る
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_3.html

人類の出アフリカ説、ここ最近の発見の全部入りになる
https://55096962.seesaa.net/article/202006article_18.html


この有様なので、とにかく何が今の最大問題なのかが分かりづらくなっているのだが、ざっくり大きく分けると以下が重大な論点になっていると思う。

■全ての”ホモ・xxx"はアフリカ起源なのか?

「ホモ・xxx」と呼ばれている現生人類の親戚たちは、つい最近まで全てアフリカ起源とされてきた。
ホモ・xxxの元になる始祖の類人猿がアフリカに発生し、そこから頭のいい特別なサルが誕生し、派生していった…というのは、ストーリーとしてわかりやすい。

しかし近代になって、進化した類人猿の骨は実はアフリカ以外にもあること、どうやらアフリカで現生人類の直接祖先が進化しようとしていた時期に、ユーラシア大陸の別の場所でも類人猿が独自進化しようとしていた可能性が示唆されるようになってきた。

もしも「ホモ・xxx」とつく種族が全て共通祖先を持ち、その祖先がアフリカを出なかったのであれば、ホモ・サピエンスの前に分岐した種族たちは、我々よりも先にみんなアフリカから出て拡散していったことになる。しかし、実は祖先が別々で、地球上の各地域で進化した他人の空似だったのだとすれば、話は全然違ってくる。

例えば、ホモ・フロレシエンシスの問題がある。
インドネシアのフローレス島にかつて暮らしていた小型の人間で、現生人類との混血は無く、現生人類との一定期間の共生が示唆されるものの、その後は絶滅してしまった。

ホモ・サピエンスとはあまりに体格が違うことや、アフリカを出たとすればいつなのか、なぜ中間地点に類似する小型のヒトが存在しないのか、などの問題があった。もし彼らが実は現地の類人猿から独自進化した種族なのだとすれば、ある意味で謎は全て解決してしまう。

つまり、現生人類がアフリカ産であることまでは揺らがないにしても、今までヒトと見なされてきた他種については「多地域進化説」が復活していると言える。
(厳密に言うと、現生人類についても、アフリカを出た時期や、アフリカと隣接するレパントなどの地域への進出年代については最近かなり流動的になってきている。少なくとも「出アフリカ」は特別なイベントではなく、陸続きの地域にフレキシブルに進出していたことは確実視されている)

あまりに古い骨からはDNAが採取出来ないため、依然としてヒトという種族の黎明期は謎に包まれている。発掘で古い骨が出てこないことには話しが進まないジャンルでもある。
そして大抵、発掘されているのはヨーロッパとかアフリカの一部だけで、中央アジアや東南アジアは空白に近くなっている。

ただし、このジャンルで今まで無条件で信じられていたかなり根本的な部分で揺らぎはじめていて、10年もすれば全然別の歴史が描かれている可能性があることは、心に留めておいてもいいかもしれない。


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なお、人間の種族としての拡散スピードはかなり早いため、逆に全ホモ族がアフリカスタートだったとしても、一応帳尻は合う。
気候が適していた時期にぶわーっと出かけていけばいいだけなので。ぶっちゃけ哺乳類の中ではスタミナお化けみたいな種族なので…。

しかし逆に言えば、世界各地にいた類人猿の中で、アフリカにいたただ一種だけが知能を進化させたと信じる理由も、特にない。
そもそも”ホモ・xxx"という分類が正しいのかどうかも含め、今後の研究結果次第だと思っている。

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