チリ:アタカマ砂漠の古代文化圏は津波で一度消滅した? 地質学x考古学で見る研究

アタカマ砂漠は、世界で最も乾燥している場所と言われるほど乾燥しきった砂漠で、チリ南部に広がっている。
そこの海岸沿いに暮らしていた漁労民の集落が、今から3,800年ほど前に津波によって壊滅した可能性がある。という論文が出ていた。
津波の痕跡はいつもどおり海岸から離れた場所に残る海の堆積物。また、同時期に集落が放棄されており、約1000年の間、人が戻った痕跡がないのだという。

本当なら面白いのだが…果たして? というところ。

Did a 3800-year-old Mw ~9.5 earthquake trigger major social disruption in the Atacama Desert?
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abm2996

チリはもともと大地震多い地域なのと、近くに断層があるのとで、これだけ出されると確かに地震による津波には見える。

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だが、少し前に出た論文で、堆積物だけでは地震による津波か、気象変化による津波なのかが判定出来ない、というものがあるのだ。

Tsunamis in the geological record: Making waves with a cautionary tale from the Mediterranean
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.1700485

古代地中海世界で津波の影響はどのくらい? 過大評価の可能性が示唆される
https://55096962.seesaa.net/article/202202article_17.html

これによると、台風や季節嵐などによって発生する気象津波でも、津波同様の堆積物ができるそうで、地中海沿岸の遺跡でかつて津波の痕跡とされていたものについては再評価が必要だという。

チリ沿岸といえばエルニーニョ/ラニーニョ現象の影響を強く受ける地域であり、近年では、乾燥地帯とされるアタカマ砂漠が緑の花畑になった、などの報道がときおり見られるようになった。
3,800年前はどうだったのだろうか。
その時代、大規模な気候変動は無かったのだろうか…?

今回の津波のものとされる痕跡が、地震のものだと断言できるだけの条件を備えているのかどうか、私の知識では判別がつかなかった。

ただ、一つ気になったのは、地震という単発のイベントだけなら、漁労民が長期間、海を離れることは無かったのでは? ということだ。
日本の東日本大震災の場合、あれだけの規模の災害を食らっても、10年後にはそれなりの規模で人が元の場所に戻っている。海の民は海を離れては生きられない。食料の大半を海から得ていたならなおさらだ。
その海の民が1000年も海辺を離れていたのなら、それは、単発のイベントが原因ではなく、気候変動によって頻繁に高波が来るようになったとか、海岸線が変化したなどの持続的な変化によるもののほうが可能性が高いのではないかという気がしている。

あと、今回の研究、コンピュータシミュレーションで地震の際の津波の傾向とかも出してるけど、気象津波でもほぼ同じ内容になるのでは…。

というわけで、他の可能性が十分に否定できるのかどうかがポイントになりそうな研究だと思った。
大事なことは、「津波の原因は地震だけではない」しいうこと。沿岸から離れたところから海に関連する堆積物が出てきたからって単純に地震と結びつけていいわけじゃないんすよ。

小さな窓から過去を覗き見るということ、過去の歴史の再構築は、かくも難しい。