古代パルミラ人はフッ素症で悩んでいた。その原因は「地下水」だった

パルミラは、シリア北部にある遺跡。ISが猛威を振るっていた時代には、爆破される動画が出回って古代文明ファンにショックを与えていた。
そのパルミラだが、シリアが内戦状態になる以前には日本人の学者も多く研究に入っていて、興味深い論文もいくつかある。その一つを紹介しておきたい。

Why did the ancient inhabitants of Palmyra suffer fluorosis?
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0305440306000252

シリア古代パルミラ人と高フッ素症 
http://www.jsac.or.jp/tenbou/TT52/09-1A24.html

パルミラ人がなぜフッ素症になっていたのか、という話である。
元々この現象に気づいたのは、パルミラの墓から出てくる人骨が極端に脆く、しかもほとんどの個体で歯が茶色く帯状に着色されているところからだったという。現代の現地人でも同様の症状が出ているため、疑問に思って調べたところが実は地下水に含まれる高濃度のフッ素が原因だった、という。

パルミラ周辺は古代も今も乾燥地帯で、川から遠く、カナートと呼ばれる井戸からの水を利用する。そのため、地下水に含まれる成分を生涯に渡り吸収することになってしまうのだ。
水に含まれるフッ化物イオン濃度は0.3~3.0ppmとのことだが、飲んで大丈夫な基準値がだいたい1.0ppmくらいだそうなので、3倍行ってる箇所もあるということになる。

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人骨に含まれるフッ素量を見ると、なるほど高いな、、、という感じ。
古代人もまさか水が原因とは思わなかっただろうし、もしそれを疑ったとしても他の水源はないわけなのでどうしようもなかっただろう。

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ちなみに、水に含まれるフッ素量は、煮沸するなどしても減らないのだそうだ。
逆に増えることもないが、これはフローライト(蛍石/主成分はフッ化カルシウム)に転化してしまうせいだという。フッ素の除去は簡単ではない、ということなので、パルミラ周辺の砂漠地帯でフッ素症の発症を抑えるためには、遠くから水道水を引いてくるか、ミネラルウォーターを買うしか無い。
これは、現代においてもそう簡単に解決出来ないはずなので、フッ素症が風土病のように残り続ける地域の一つと考えられる。


なお、フッ素症とは、フッ素をとりすぎることによって起きる病気で、今回のものは急性ではなく慢性的な症状の話。歯が茶色くなるだけならまだマシなのだが、骨フッ素症になると、骨がもろくなり、重篤になると四肢麻痺なども発症するようなのだ。
ただし虫歯予防に使われる成分のため、葉の色は悪くなるが虫歯は減るといい、パルミラの人骨も、他地域の古代人では10%程度見られる虫歯が2-3%と優位に低い。(ちなみに穀物主体で食べてた弥生時代の日本人だと20%くらい虫歯を持ってるらしいので、穀物主体の食生活をしている古代人としては相当低いほうだと思う) *このあたりの話は「倭人への道」という本の後ろのほうにオマケのように載ってる話も参照

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/teeth/yh-026.html#:~:text=%E3%83%95%E3%83%83%E7%B4%A0%E7%97%87%EF%BC%88%E3%81%B5%E3%81%A3%E3%81%9D%E3%81%97%E3%82%87%E3%81%86%EF%BC%89&text=%E6%AD%AF%E3%81%AE%E3%83%95%E3%83%83%E7%B4%A0%E7%97%87%E3%81%AF,%E6%A7%98%E3%81%AB%E7%99%BD%E6%BF%81%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

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水がなければ人は生きてゆけず、町も文明も築けない。
だが、その水が人体に悪影響を及ぼす成分を含む地域もある。パルミラ人は、その土地を選んだ時点で最初から、慢性的な病気と隣合わせになってしまっていたのだ。

考えてみれば、安全でおいしいお水を飲めるのはとても有り難いことなのだ。この幸せを大事にしていきたい。