「古代エジプトではマリーゴールドが薬として使われていた!」→キンセンカ(ポット・マリーゴールド)のことだった

ハーブティー飲もうとしたら、中に入ってるマリーゴールドに「エジプト産」って書かれてて、ん? って思った中の人ですよ。

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マリーゴールドは南米原産。なので、どっかの時代にエジプトに輸入されて栽培されるようになった、ハイビスカスと同じパターンなのかなーと思ってたのだが、ネット上でググってみるとどうも「マリーゴールドは古代から地中海で薬用として使われ…」とか「マリーゴールドは古代エジプトでは若返りの薬として使われ…」のような謎の記述がちらほら見受けられる。
だがメキシコ原産のマリーゴールドが古代エジプトにあるわけがない。

この勘違い、一体どこから出てきたのか…?

調べてみると、面白いことが分かった。
食用にされているマリーゴールドは、一般的なマリーゴールドのことではなくポット・マリーゴールド=キンセンカだったのだ。
キンセンカであれば、昔から地中海近辺で食用にされており、古代エジプトで使った可能性も無くもない。

つまり、「マリーゴールドは古代エジプトで薬として使われた」というような記載は全て、本来の園芸品種のマリーゴールドと、別名の一つに「ポット・マリーゴールド」をもつキンセンカを混同している、ということになる。

■マリーゴールド(マリーゴールド)

メキシコ原産、学名:Tagetes
コウオウソウ属
一般的なマリーゴールドはこちら。園芸品種で食べられない

なお、アフリカン・マリーゴールドなどと名前がついているものも、原産地は南米でアフリカとは関係ない。
学名Tagetesがエトルリアの女神の名前から来ている~という由来も、ラテン語名はかつてリンネが設定したものから転用しているので原産地とは関係ない。

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■ポット・マリーゴールド(キンセンカ)

地中海原産、学名:Calendula
キンセンカ属
英名にマリーゴールドとつくが属も学名も違う。英名でもカレンデュラと呼ばれることが多い
食用にされる

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ハーブティーで「マリーゴールド」と書かれているものが、実は「ポット・マリーゴールド」=キンセンカ(カレンデュラ)のことだと分かってしまえば、いくらでも情報は探せる。たしかにエジプトでたくさん栽培されているし、「あーこれ見たことあるな…」という感じ。
というか、ハーブティーの表記も本当は「マリーゴールド」ではなく「カレンデュラ」か「キンセンカ」にするのが正しいんじゃないかな。

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というわけで、通販サイトなどで「マリーゴールド(学名:Tagetes)は古代から地中海で栽培され…」のような記述を見つけた場合や、提示されている写真が園芸用のマリーゴールドのほうだった場合は、そこの商品は買わないほうがいい。通販などの商売をやってる人が園芸品種と食用の区別ついていないのは結構イタイ。

なお、本来の英名が「ポット・マリーゴールド」なのに材料表示では「マリーゴールド」と省略されてしまっていること自体は、わりと良くある話で、業者自身が区別出来ていればいいだけである。

たとえば日本ではキタムラサキウニとムラサキウニの場合がそうだ。実際に食用にされるのはキタムラサキウニのほうで、ムラサキウニはあまり美味しくないため食用にされることは少ない。しかしお店での表示は「ムラサキウニ」となっている。(ここで区別つくかどうかで食通ぶってるだけか、本物の食通かの試金石にもなる)

世の中にこうした引っ掛けはわりとたくさんあるのかもしれない。

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[>参考
似たような話の調査例

クレオパトラはハイビスカス・ティーを飲んだか? ~それは商売上の売り文句だった
https://55096962.seesaa.net/article/201604article_24.html

→ハイビスカスがエジプトで飲用されるようになったのは、めっちゃ最近でした。

クレオパトラはアロエを美容に使ったか? ~これも近代に創作された宣伝文句だった。
https://55096962.seesaa.net/article/201610article_23.html

→エジプトにあるのは美容に使われるアロエではなく火傷に効くほうのアロエでした。

モロヘイヤはファラオの病を癒した草…? 良く分からない説が飛び交っていたので確認してみた
https://55096962.seesaa.net/article/201708article_14.html

→薬膳に使われたソースはプリニウスの「博物誌」にはあるので、そのあたりから話が盛られた可能性。