室町の京で琵琶ロックを。映画「犬王」はボヘミアン・ラプソディのオマージュ作品だった
平家物語のスピンオフものみたいなノリで宣伝されていた「犬王」。
平家物語 犬王の巻 (河出文庫) - 古川日出男
映画公式
https://inuoh-anime.com/
舞台は室町時代。平家が滅びてから約200年が経過し、平家物語は琵琶法師たちによって語り継がれている。また、猿楽のネタとしても使われている。主人公・犬王は、その猿楽の頭領の息子として生まれる。だが、生まれた時から異形で、人の形を成していなかった。
というのも、頭領がより芸の高みに達したいと願うあまりに化け物と契約し、あまり人に知られていない「新しい」平家物語を知る琵琶法師たちを斬り殺しては、その物語を自分のものとして独占していたから。自分たちの物語を語り継いでもらえず、浮かばれない平家の亡霊たちが犬王にとりついて、体を変形させていたのだった。
芸を身に着け、彼らの無念の物語を一つずつ舞台に乗せることによって、犬王はもとの人間の体に戻ってゆくが…。
というあらすじからすると、手塚治虫の名作「どろろ」とか、もうちょっと新しい時代の作品だと「魍魎戦記マダラ」あたりに似てるな、という感じがあると思う。
だがここにもう一つ、壇ノ浦で失われた三種の神器の一つ、草なぎの剣に関わってしまったために盲(めしい)となった琵琶弾きの友魚という少年が加わることでバディものとなり、さらに二人がタッグを組んで舞台を作るためにバンドものとなっている。
映画のキービジュアルで琵琶をまるでギターのように抱える友魚(のちに改名して「友有」となる)の姿でピンとくる人は来ると思うのだが、気づかないまま平家物語の話だと思って映画館に言ってしまうと、中盤で唐突に始まる 琵琶ロック の舞台に「???」ってなると思う。
――そう、これは、平家物語を語り継ぐ琵琶法師と、それを舞う猿楽師の話というだけではない。
知られざる物語を、今までに無かった新しい方法で民衆に広めようとした、600年前の新進気鋭のアーティストたちの物語 なのである。
なので琵琶語りがロックでも、和太鼓でドンドンパン(We Will Rock You)をやり始めても、全然不思議はない。
将軍の御前で舞う猿楽がシルク・ドゥ・ソレイユのイリュージョンでも問題ない。
というか、そもそも「犬王」という人物自体、ほとんど記録が残されておらず、新しい芸風を持ち込んだことや「天女舞」という芸を得意としたことしか知られていない。その設定を巧く生かした内容だと思うので、私はアリだなと思った。
ていうかライブシーンがちょっと現代風なのを除けば、当時の京の町並みの再現や、烏帽子直垂の描写、女房たちの様子などめちゃくちゃ作り込まれていて良く出来ているのである。歴史マニアなら随所で唸るところだと思う。
ついでにロックが分かればライブシーンの元ネタも分かって二度美味しいが、もし自信がなければ事前に「ボヘミアン・ラプソディ」を見ておくといい。かなり影響を受けて作ったんだな、と思えるところがあった。
ちなみに中の人はその昔、一時期なぜかツェッペリンにハマっていた時期があるので、イギリスのロックはなんとなく分かる。なので、その下地をもってこの映画を見に行くと、「あーこの曲はアレが元ネタだ…」「この友有のダンスはあのライブから来てるな…」とかが薄っすら分かった。
人生のいつか、どこかでふとした楽しさを与えてくれる、それが教養というもの。まさかロックと平家物語がコラボする日が来ようとは、あの頃は想像もしていなかった。
桜舞い散るラストシーン、星天の回る中を消えてゆく亡霊たち、それはもうひとつの平家物語としてはふさわしい〆であった。
大衆ウケはしないだろうが、久しぶりに良い映画を見たな、と思う。
平家物語 犬王の巻 (河出文庫) - 古川日出男
映画公式
https://inuoh-anime.com/
舞台は室町時代。平家が滅びてから約200年が経過し、平家物語は琵琶法師たちによって語り継がれている。また、猿楽のネタとしても使われている。主人公・犬王は、その猿楽の頭領の息子として生まれる。だが、生まれた時から異形で、人の形を成していなかった。
というのも、頭領がより芸の高みに達したいと願うあまりに化け物と契約し、あまり人に知られていない「新しい」平家物語を知る琵琶法師たちを斬り殺しては、その物語を自分のものとして独占していたから。自分たちの物語を語り継いでもらえず、浮かばれない平家の亡霊たちが犬王にとりついて、体を変形させていたのだった。
芸を身に着け、彼らの無念の物語を一つずつ舞台に乗せることによって、犬王はもとの人間の体に戻ってゆくが…。
というあらすじからすると、手塚治虫の名作「どろろ」とか、もうちょっと新しい時代の作品だと「魍魎戦記マダラ」あたりに似てるな、という感じがあると思う。
だがここにもう一つ、壇ノ浦で失われた三種の神器の一つ、草なぎの剣に関わってしまったために盲(めしい)となった琵琶弾きの友魚という少年が加わることでバディものとなり、さらに二人がタッグを組んで舞台を作るためにバンドものとなっている。
映画のキービジュアルで琵琶をまるでギターのように抱える友魚(のちに改名して「友有」となる)の姿でピンとくる人は来ると思うのだが、気づかないまま平家物語の話だと思って映画館に言ってしまうと、中盤で唐突に始まる 琵琶ロック の舞台に「???」ってなると思う。
――そう、これは、平家物語を語り継ぐ琵琶法師と、それを舞う猿楽師の話というだけではない。
知られざる物語を、今までに無かった新しい方法で民衆に広めようとした、600年前の新進気鋭のアーティストたちの物語 なのである。
なので琵琶語りがロックでも、和太鼓でドンドンパン(We Will Rock You)をやり始めても、全然不思議はない。
将軍の御前で舞う猿楽がシルク・ドゥ・ソレイユのイリュージョンでも問題ない。
というか、そもそも「犬王」という人物自体、ほとんど記録が残されておらず、新しい芸風を持ち込んだことや「天女舞」という芸を得意としたことしか知られていない。その設定を巧く生かした内容だと思うので、私はアリだなと思った。
ていうかライブシーンがちょっと現代風なのを除けば、当時の京の町並みの再現や、烏帽子直垂の描写、女房たちの様子などめちゃくちゃ作り込まれていて良く出来ているのである。歴史マニアなら随所で唸るところだと思う。
ついでにロックが分かればライブシーンの元ネタも分かって二度美味しいが、もし自信がなければ事前に「ボヘミアン・ラプソディ」を見ておくといい。かなり影響を受けて作ったんだな、と思えるところがあった。
ちなみに中の人はその昔、一時期なぜかツェッペリンにハマっていた時期があるので、イギリスのロックはなんとなく分かる。なので、その下地をもってこの映画を見に行くと、「あーこの曲はアレが元ネタだ…」「この友有のダンスはあのライブから来てるな…」とかが薄っすら分かった。
人生のいつか、どこかでふとした楽しさを与えてくれる、それが教養というもの。まさかロックと平家物語がコラボする日が来ようとは、あの頃は想像もしていなかった。
桜舞い散るラストシーン、星天の回る中を消えてゆく亡霊たち、それはもうひとつの平家物語としてはふさわしい〆であった。
大衆ウケはしないだろうが、久しぶりに良い映画を見たな、と思う。