ニワトリの家畜化は3,500年前で決着か。飼いならしたのはコメどころの可能性

ニワトリの家畜化の時期や場所は、長らく不明の状態が続いてきた。
アジアの密林に住むヤケイが原種というところまでは突き止められていても、インドから東南アジアまで幅広く様々な亜種が分布しており、しかも現代のヤケイと人間の飼育している家畜としての鶏が交雑を繰り返しているため、DNAだけからだと判別しづらい。

家畜化された時代についても幅が広く、紀元前5,000年以前とするものから、紀元前2,000年くらいとするものまで研究結果がバラバラだった。
今回は、それら先行研究を整理し、再検討した上で、新たに場所と年代を設定する論文となる。

The biocultural origins and dispersal of domestic chickens
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2121978119

最初に結論から書いておくと、この研究では紀元前1,500年が「確実に言える家畜化年代」だという。

・最初に家畜化された鶏はタイ付近にいる亜種、Gallus gallus spadiceus から進化した
・時代は紀元前1500年頃。(つまり3,500年前)

これ以前の遺跡からニワトリの骨が出てきた場合、別の種類か、家畜化されていない野生の鶏だろうというのだ。

pnas.2121978119fig01.jpg

論文の中では、先行研究としてかつて発表された、中国北部とインドの事例が再検討されている。
中国北部の1万年前のニワトリの骨は実際にはキジで、この地域には野生のニワトリが生息しないため起源地である可能性はほぼ排除できる。
インドのガンジス川中流域の遺跡で発見されている紀元前4500〜2000年頃の骨は、家畜化されたニワトリのものにしては大きすぎるか、後世の混入が疑われる状況のため排除できる。

このようにして、確実に家畜化されたニワトリの骨と分かるもの、もしくは図柄などで判別できるものを集めていった年代表が、以下に貼った図だ。これは自分の把握しているエジプト・メソポタミアやオセアニアの資料とも一致する。また中国で確実なニワトリの史料が殷王朝だというところや、日本に入ってきたのが弥生時代、というところまで言及されているので、論文の著者はかなり先行研究をつぶさに調べたのだろうという印象を受けた。

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↑書かれている数字は「そこに家畜ニワトリが確実にいた証拠があるのは、今から何年前か」というもの。


なお、ニワトリの家畜化の経緯については、酉年にいくらか調べておいた資料が、以下にもある。

今年は酉年だよ! というわけで古代エジプトの鶏について語ろう
https://55096962.seesaa.net/article/201701article_1.html

古代エジプト・メソポタミアでニワトリ飼育が遅れた理由は「伝来したのが食用ニワトリじゃなかった」可能性
https://55096962.seesaa.net/article/201706article_24.html

ニワトリはいつから西洋呪術に使われるようになったのか。飼育と呪術の歴史を考えてみる
https://55096962.seesaa.net/article/202106article_8.html

そしてさらに、この論文では、「ニワトリが家畜化された契機は人間の稲作ではないか」という話を出している。
最初の家畜ニワトリが出現する地域が、野生種の生息域と隣接するメコン川の平野だからだ。

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資料を調べてみると分かるのだが、ニワトリが飼育されるようになった理由は、採卵や食肉のためではない。
初期には「珍しい赤いヒゲ(※トサカなどの部分)がある鳥」「デカい声で朝鳴く鳥」といった扱いで、娯楽用なのである。
野生のニワトリは、森の中を自在に飛び回る機動力の高い、しかも気性の荒い鳥だ。日本の野山で出会うキジに近い。それがいつしか飼いならされていくうちに食用化されたのものが家畜種となるのだが、そのきっかけは何だったのか。

もし人間が稲作を行い、コメがそのへんに転がっている状態が生まれ、コメ食べたさにヤケイが森から出て人間の住居の近くをウロつくようになったのが飼育の始まりだったとしたら…?

この部分はまだ、検討の必要な推測に過ぎない。しかし、警戒心の強いヤケイが人間とともに暮らすようになるからには、何かきっかけは必要なので、これは説としてはアリだと思う。
かつて古代エジプト人は、麦作を通じてネコを飼いならした。穀物にたかるネズミを取らせるためである。
農耕と牧畜の歴史は常に複雑に絡み合い、共鳴しあっているが、もしかしたらニワトリの歴史も、そのうちの一つとして数えられるべきものなのかもしれない。