創作物によく見る「お嬢様=電車に乗ったこと無い」のテンプレとその実際、日米の違い等

巷に溢れるマンガや小説、アニメなどで、「お嬢様」というステータスを持つキャラクターは人気である。
キャラづけしやすいからなのか、特にラブコメではしょっちゅう見かける。

世の中そんなにお嬢様っているものなのか? という話だが、まぁ、いる。中の人も小学生のときお嬢様の友達がいた。毎日送り迎えしてもらい、一緒に遊びに行くときはあらかじめコースを親御さんに申請しておき、決まった時間に迎えが来る。といっても田舎だったので繁華街=近所の商店街、であり、ほぼその商店街から出ることもなかったわけだが…。

そんな「お嬢様」キャラには、決まって「世間知らず」のテンプレがついてくる。「電車の乗り方を知らない」とか「一人で買い物が出来ない」とか、「たこ焼きのようなジャンクフードを食べたことがない」のようなやつである。
田舎のお嬢様ならそれはあり得る。そもそも電車が一時間に一本しか来なかったりする田舎だと、じゃあ車で移動するわ~って人が多いからである。
しかも駅前以外にコンビニが無かったりするから、「コンビニに行ったことがない」まではリアルにあり得る。

だが電車やお買い物が便利にできてる都会で、それはあり得るのか…?
タワマンの隣にコンビニがあったりするご時世、タワマン最上階住み程度のお嬢様なら普通にコンビニに行くのでは。

ここで前提となってくるのは、「お嬢様にも色々ある」ということである。


●ガチなお嬢様と、ちょっとお金持ち程度のお嬢様

分かり易いところで言うと、「旧家族とか皇族に繋がるような家柄のご令嬢」と「親が起こした企業が大きくなってお金持ちになった家の娘」とかである。

前者は家の格式も高く、独特の雰囲気や高貴さみたいなものを持つガチお嬢様というやつで、間違っても小学校で雑巾絞りはしないだろう。というか、通う学校も限られてくると思われ、中の人も会ったことはない。

後者は成金に近い雰囲気で、マナーなどは仕込まれているだろうが雑巾絞りくらいはする、あと場合によっては男子生徒に人気だったりする。中の人の学生時代の友人にいたのはこっちのタイプである。家は豪邸でお手伝いさんがいて送り迎えもついてて私服が豪華…でも手の届くところにいる、みたいな、ラブコメによくいる「お嬢様」のイメージ。
彼女は、確かにちょっとズレしているところはあった(主に金銭感覚と将来感)が、さすがに電車の乗り方を知らないレベルの世間知らずではなかった。同級生と一緒に映画見てミ○ドでお茶しばくくらいはしてたし。

おそらく、創作物に出てくる「お嬢様」は、一般人がまず会うことのない"ガチなお嬢様"のほうをイメージしながら、一般社会と陸続きの場所にいる”お金持ち程度のお嬢様"のほうを描写している。
そのへんの男子とラブコメ出来る程度のお嬢様の多くは、おそらく、実際にはそこまで世間知らずな状態ではない。


●「お嬢様は電車に乗らない」はアメリカだと普通

日本ではお嬢様でも電車に乗る。
しかし外国、特にアメリカでは事情が異なる。

アメリカの小説で「お嬢様」や「奥様」が出てくる小説では、そもそも電車=庶民の乗り物という描写を何度か見かけている。代表例は「ミス・メルヴィル」シリーズである。
家が没落したお嬢様、スーザン・メルヴィルは、社交界にも出入りする名家の出身で、お上品なオールド・ミスである。彼女は家から出る時はタクシーを使う。「電車は拷問のようなもの」で「まともな人間の乗るものではない」と表現する。そして「たまには健康のために歩こう」とまで言う。

これはNYの鉄道を知ってると、そうだねとしか言いようがない。治安が悪い。とんでもなく汚い。上等な服着て乗ったらスリにあうか、チップをねだる一群の浮浪者に囲まれるか…。あとを付けられて家を特定されたり誘拐されたりするかもしれない。確かに、アメリカの電車は上流階級の人間が乗るものではない。

日本の創作物によくある「お嬢様は電車に乗らない」のテンプレがアメリカ小説から来たかどうかは分からないが、少なくとも、同じような描写があってもその裏にある現実は全く異なるものだと言える。


●都会のお嬢様と田舎のお嬢様

もう一つ、都会と田舎では「お嬢様」事情はかなり異なるだろうということ。
都会のお嬢様には外出先がある。田舎のお嬢様にはほとんどない。

都会なら、「銀座のブティックに行く」とか「デパートの外商に行く」とかで何かと外出の用事があるものだ。
しかし田舎にはそもそも、オシャレなブティックなんか無い。デパートっぽいものは駅前に建ってる雑居ビルか郊外のイオ●あたり。そんなとこ行かないだろうから、マジで外出先がないのである。

とはいえ、田舎にも旧家のお嬢様などはいる。
広い家は文化財、庭に池があって鯉が泳いでて松が生えてて、床の間になんかすげー高そうな壺が飾ってある、みたいなお嬢様である。そういうお嬢様は、実にマンガ的な「世間知らず」で、ヘタしたらスマホもロクに使えない。社会に出ることもなく、すぐご近所の親戚筋にある旧家に嫁いでいったので、「幼い頃から婚約者がいる」みたいな設定のお嬢様そのものであった。

都会のお嬢様は何かと情報や刺激が多いが、田舎のお嬢様は現代でも「箱入り」のまま一生を過ごすことがあり得る。
世間知らず、婚約者がいる、外の世界に憧れている、などの創作物によくあるお嬢様テンプレは、田舎のお嬢様こそ当てはまりそうだなあ、と思うのである。