日本のバッタ研究者たちの本気。「バッタの大発生の謎と生態」
いい本が出てるんじゃーん! ということで早速読んでみた。
コロナ禍が始まった頃に話題になっていた、サバクトビバッタ大発生に関する本である。ついでに、日本で大発生を引き起こすトノサマバッタについても説明してあり、両者の違いや、日本にいるトノサマバッタの遺伝的多様性などについても解説があるので、幅広く面白い。
バッタの大発生の謎と生態 - 田中誠二 他
なお本が出たのが去年なので、まだバッタの大発生は収束していないという記述になっているが、今年の2月に大発生は収束している。
サバクトビバッタの大量発生も例年通りのレベルに収束。そして人間の元にはナレッジが残った
https://55096962.seesaa.net/article/202202article_16.html
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大発生当時に書いた記事
イナゴの群れが中国に到達! というクソみたいなデマが流れていたので、バッタの進行の見方を解説する
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_20.html
イナゴの群れは夏には中国に到達! というクソみたいなデマが流されるので、もう少しバッタについて説明する
https://55096962.seesaa.net/article/202003article_7.html
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イナゴと呼ばれているが実はイナゴとは別ものだとか、hopperとlocustの違いだとかは、この本を読むか、上記の過去記事を見てほしい。
まるで未曾有の大災害のように騒がれ、日本にも到達するのでは?!とか言われていたが、そもそも、このサバクトビバッタの大発生はそういうものではないのだ。
で、研究者たちが調べているのは、どういう条件でバッタが大量発生するのか? とか、群れになるとなぜ体色や行動が変わるのか? といった生態全般である。
たとえば、トノサマバッタは日中に孵化し、サバクトビバッタは夜明けに孵化するという違いがある。この程度のことさえ、研究によって明らかになった話である。夜明けに孵化するのは、サバクトビバッタは暑い国にいて、気温の下がった時が孵化しやすいから。そして真っ昼間だと天敵に狙われやすいからだと考えられている。
また、サバクトビバッタは群れになると群生相という黄色い独特の色合いになり、行動パターンが変化して、長距離移動するようになる。
この群生相への変化を引き起こすトリガーや、動物でいうホルモンにあたる物質を探っている研究もあるのだが、内容が実に面白いのである。
周囲に仲間がたくさんいることを視覚的に認識すると群生相になるのだが、別に同種の仲間じゃなくてもいいのだ。トノサマバッタがたくさんいても、なんとオタマジャクシでさえも、とにかく目の前に何か動く「群れ」がいると、刺激を受けて群生相になる。資格情報なので、録画映像のオタマジャクシでもいい。
実験風景を想像するとかなりシュールだが、「そう…なんだ…」という感じだ。いや、うん。そうなんだ…。
また、トノサマバッタも群生相になるのに、メカニズムがかなり違うらしいのも興味深かった。共通祖先から派生した時には持っていなかった機能なのかもしれない。
あと南北アメリカで大発生して群れを成すバッタは、600万年も前にアフリカから渡ったサバクトビバッタの遠い遠い祖先らしいということや、日本のトノサマバッタはシベリア経由、南方の列島経由、オセアニアとのつながりや、中国大陸からの渡来系など様々な遺伝系統が混在していることなど、最近流行りのDNAの分析による研究もあった。
サバクトビバッタの研究をしている国は、実はそんなに多くはない。
聖書に出てくるイナゴの記述がらみでイスラエルがちょいちょいやってるのと、かつての植民地絡みでイギリスでやってるのと、あと日本。実は日本はバッタの研究大国のひとつだと思う。バッタの論文探してると、日本人研究者の名前もよく出てくるのだ。この本の中にも、見たことのある論文の内容がかなり入っていた。
そんな研究大国の、これまでの研究成果の集大成が一般人でもわかる内容と手頃なボリュームで出版されているのだ。
二年前はデマ情報が飛び交ってめんどくせーなって感じだったが、これからは「本読んでこい」と言えるわけなので、楽になるなと思った。といっても、おそらく次回の大発生はまた数十年後とかなのだが…。
****
なお、この本の隠れた見どころは、研究者たちのナチュラルな狂気だと思っている。
重要な研究なのは分かるが、バッタに延々とオタマジャクシの映像を見せ続けるとか。
仮死状態にしたバッタに外科手術を施すとか。
バッタの糞が乾燥して茶葉っぽいからとお茶にして飲んでみるとか。
サラっと書いてあるけどそれ…えっ…? 思いついたからって、それやる…? やるの…? みたいな研究がてんこもりで、学者って大変なんだなということもわかる。まあそこが面白いんだけど。
コロナ禍が始まった頃に話題になっていた、サバクトビバッタ大発生に関する本である。ついでに、日本で大発生を引き起こすトノサマバッタについても説明してあり、両者の違いや、日本にいるトノサマバッタの遺伝的多様性などについても解説があるので、幅広く面白い。
バッタの大発生の謎と生態 - 田中誠二 他
なお本が出たのが去年なので、まだバッタの大発生は収束していないという記述になっているが、今年の2月に大発生は収束している。
サバクトビバッタの大量発生も例年通りのレベルに収束。そして人間の元にはナレッジが残った
https://55096962.seesaa.net/article/202202article_16.html
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大発生当時に書いた記事
イナゴの群れが中国に到達! というクソみたいなデマが流れていたので、バッタの進行の見方を解説する
https://55096962.seesaa.net/article/202002article_20.html
イナゴの群れは夏には中国に到達! というクソみたいなデマが流されるので、もう少しバッタについて説明する
https://55096962.seesaa.net/article/202003article_7.html
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イナゴと呼ばれているが実はイナゴとは別ものだとか、hopperとlocustの違いだとかは、この本を読むか、上記の過去記事を見てほしい。
まるで未曾有の大災害のように騒がれ、日本にも到達するのでは?!とか言われていたが、そもそも、このサバクトビバッタの大発生はそういうものではないのだ。
で、研究者たちが調べているのは、どういう条件でバッタが大量発生するのか? とか、群れになるとなぜ体色や行動が変わるのか? といった生態全般である。
たとえば、トノサマバッタは日中に孵化し、サバクトビバッタは夜明けに孵化するという違いがある。この程度のことさえ、研究によって明らかになった話である。夜明けに孵化するのは、サバクトビバッタは暑い国にいて、気温の下がった時が孵化しやすいから。そして真っ昼間だと天敵に狙われやすいからだと考えられている。
また、サバクトビバッタは群れになると群生相という黄色い独特の色合いになり、行動パターンが変化して、長距離移動するようになる。
この群生相への変化を引き起こすトリガーや、動物でいうホルモンにあたる物質を探っている研究もあるのだが、内容が実に面白いのである。
周囲に仲間がたくさんいることを視覚的に認識すると群生相になるのだが、別に同種の仲間じゃなくてもいいのだ。トノサマバッタがたくさんいても、なんとオタマジャクシでさえも、とにかく目の前に何か動く「群れ」がいると、刺激を受けて群生相になる。資格情報なので、録画映像のオタマジャクシでもいい。
実験風景を想像するとかなりシュールだが、「そう…なんだ…」という感じだ。いや、うん。そうなんだ…。
また、トノサマバッタも群生相になるのに、メカニズムがかなり違うらしいのも興味深かった。共通祖先から派生した時には持っていなかった機能なのかもしれない。
あと南北アメリカで大発生して群れを成すバッタは、600万年も前にアフリカから渡ったサバクトビバッタの遠い遠い祖先らしいということや、日本のトノサマバッタはシベリア経由、南方の列島経由、オセアニアとのつながりや、中国大陸からの渡来系など様々な遺伝系統が混在していることなど、最近流行りのDNAの分析による研究もあった。
サバクトビバッタの研究をしている国は、実はそんなに多くはない。
聖書に出てくるイナゴの記述がらみでイスラエルがちょいちょいやってるのと、かつての植民地絡みでイギリスでやってるのと、あと日本。実は日本はバッタの研究大国のひとつだと思う。バッタの論文探してると、日本人研究者の名前もよく出てくるのだ。この本の中にも、見たことのある論文の内容がかなり入っていた。
そんな研究大国の、これまでの研究成果の集大成が一般人でもわかる内容と手頃なボリュームで出版されているのだ。
二年前はデマ情報が飛び交ってめんどくせーなって感じだったが、これからは「本読んでこい」と言えるわけなので、楽になるなと思った。といっても、おそらく次回の大発生はまた数十年後とかなのだが…。
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なお、この本の隠れた見どころは、研究者たちのナチュラルな狂気だと思っている。
重要な研究なのは分かるが、バッタに延々とオタマジャクシの映像を見せ続けるとか。
仮死状態にしたバッタに外科手術を施すとか。
バッタの糞が乾燥して茶葉っぽいからとお茶にして飲んでみるとか。
サラっと書いてあるけどそれ…えっ…? 思いついたからって、それやる…? やるの…? みたいな研究がてんこもりで、学者って大変なんだなということもわかる。まあそこが面白いんだけど。