インダス文明はもはや「謎」ではない、最近の研究まとめ本
価格帯と内容的にお得だな、と思った本を読んでみた。
コロナ禍が来る少し前からインダス文明の最新研究本が何冊か出ていて、トレンドみたいなもんかなと思う。
インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る - 上杉 彰紀
まずおさらいなのだが、インダス文明は大河文明ではない。
かつてはインダス川流域に発展したのだと考えられてきたが、それは最初に発掘されたハラッパーやモヘンジョ・ダロがたまたま川の近くにあったところからの誤解であり、数十年前レベルの知識となる。
現在分かっていることは、インダス文明の領域は現代のインド北東部から隣のパキスタン、アフガニスタンまで広がる広域型の文明だ。日本の国土の3-4倍はあろうかという広い範囲をカバーしている。だから地方ごとに幾つかのまとまりに分かれて「インダス文明」の中でも「xx地方の文化」のようないくつかのカテゴリーに分けられる。
具体的に言うと、時のトレンドの違い、ロケーションや気候に応じた主食の違い。家の作り方ですらも、石材を使うかレンガを使うか、レンガにしても焼成するか日干レンガを使うかで違いがある。残ってはいないが、おそらく衣類など細かな生活文化も異なっていただろう。
他と異なるユニークな文明と言われているが、マヤの都市国家に近い。マヤ文明も広域文明の一つで、ジャングルのあちこちにある都市国家が人やモノの流通を通じてゆるやかに繋がっている、交易路の集合体のような文明だった。インダス文明の場合は、都市国家までいかず、都市の有力者はいたかもしれないが、王は居なかったようだ。
この本では、そうしたインダス文明のあり方のうちいま分かっていることと、文明の「はじまる前」「終焉を迎えたあと」という時間の流れが主軸となっている。
特にインダス文明の「あと」について書かれているのは面白いと思った。
文明は、ある日とつぜん終わるわけではない。というか、インダス文明が劇的な終わりを迎えたわけではないことは、既にわかっている。現状有力な説は、気候変動によって降水量が変化し、干上がった地域から比較的肥沃な地域へと人が移動した結果、いくつかの都市が放棄され、別の場所に都市が新たに出現したのだろう、というものだ。
インダス文明が交易路の集合体とすれば、都市の移動と交易路の衰退・変化によってネットワークが途切れたことによって、いったん文明としては終焉と呼べる衰退期に入ったのだろう。
ただし実際には、文明の担い手だった人たちはまだそこに暮らしている。
移住して散らばってしまったので遺跡や遺物としては認識できなくなった、というだけのことだ。
では、彼らは一体どのようにインダス文明の遺産を後世に引き継いでいったのか。
少なくとも、インダス文字については引き継がれなかった。土器づくりの基本的な手法は現代まで引き継がれている可能性があるらしいが、文様も引き継がれなかった。
ラピスラズリや紅玉髄など貴石の流通路と加工技術は、現代まで生き残っている遺産の一つだと思う。
前後が分かってきたことで、インダス文明はもはや、突然現れて、突然消えた「謎の」文明ではなくなった。これからは、南インドの歴史の一部として、あるいは西南アジアとの繋がりの年表の中で語られることになるのだろう。
コロナ禍が来る少し前からインダス文明の最新研究本が何冊か出ていて、トレンドみたいなもんかなと思う。
インダス文明 文明社会のダイナミズムを探る - 上杉 彰紀
まずおさらいなのだが、インダス文明は大河文明ではない。
かつてはインダス川流域に発展したのだと考えられてきたが、それは最初に発掘されたハラッパーやモヘンジョ・ダロがたまたま川の近くにあったところからの誤解であり、数十年前レベルの知識となる。
現在分かっていることは、インダス文明の領域は現代のインド北東部から隣のパキスタン、アフガニスタンまで広がる広域型の文明だ。日本の国土の3-4倍はあろうかという広い範囲をカバーしている。だから地方ごとに幾つかのまとまりに分かれて「インダス文明」の中でも「xx地方の文化」のようないくつかのカテゴリーに分けられる。
具体的に言うと、時のトレンドの違い、ロケーションや気候に応じた主食の違い。家の作り方ですらも、石材を使うかレンガを使うか、レンガにしても焼成するか日干レンガを使うかで違いがある。残ってはいないが、おそらく衣類など細かな生活文化も異なっていただろう。
他と異なるユニークな文明と言われているが、マヤの都市国家に近い。マヤ文明も広域文明の一つで、ジャングルのあちこちにある都市国家が人やモノの流通を通じてゆるやかに繋がっている、交易路の集合体のような文明だった。インダス文明の場合は、都市国家までいかず、都市の有力者はいたかもしれないが、王は居なかったようだ。
この本では、そうしたインダス文明のあり方のうちいま分かっていることと、文明の「はじまる前」「終焉を迎えたあと」という時間の流れが主軸となっている。
特にインダス文明の「あと」について書かれているのは面白いと思った。
文明は、ある日とつぜん終わるわけではない。というか、インダス文明が劇的な終わりを迎えたわけではないことは、既にわかっている。現状有力な説は、気候変動によって降水量が変化し、干上がった地域から比較的肥沃な地域へと人が移動した結果、いくつかの都市が放棄され、別の場所に都市が新たに出現したのだろう、というものだ。
インダス文明が交易路の集合体とすれば、都市の移動と交易路の衰退・変化によってネットワークが途切れたことによって、いったん文明としては終焉と呼べる衰退期に入ったのだろう。
ただし実際には、文明の担い手だった人たちはまだそこに暮らしている。
移住して散らばってしまったので遺跡や遺物としては認識できなくなった、というだけのことだ。
では、彼らは一体どのようにインダス文明の遺産を後世に引き継いでいったのか。
少なくとも、インダス文字については引き継がれなかった。土器づくりの基本的な手法は現代まで引き継がれている可能性があるらしいが、文様も引き継がれなかった。
ラピスラズリや紅玉髄など貴石の流通路と加工技術は、現代まで生き残っている遺産の一つだと思う。
前後が分かってきたことで、インダス文明はもはや、突然現れて、突然消えた「謎の」文明ではなくなった。これからは、南インドの歴史の一部として、あるいは西南アジアとの繋がりの年表の中で語られることになるのだろう。