中国南部の馬鹿洞人(ばかではない)、新種ではなく古代人ぽい見た目の現生人類と判明する。

馬鹿洞人(ばろくどうじん)というのは、中国南部の马鹿洞(Maludong/Red Deer Cave)という洞窟で見つかった古い骨である。見た目が類人猿っぽかったため、かつては原人か、ネアンデルタール人との混血ではないかと言われていた。しかし、年代が1万4千年前とかなり新しく、そんな時代に現生人類以外のヒト種が生き残っているはずはない、という批判を受けていた。

長らくDNAの抽出ができず、この骨が何者なのか分からないままだったのだが、最近の調査でようやく「見た目はアレだけど現生人類でした!」という評価が出た。

Red Deer Cave people
https://en.wikipedia.org/wiki/Red_Deer_Cave_people#cite_note-Curnoe2015b-5

馬鹿洞人
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A6%AC%E9%B9%BF%E6%B4%9E%E4%BA%BA#cite_note-NG-5

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洞窟の場所はココ(後述する論文からの抜粋)

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ただ、この話に付随して「アメリカ先住民とも繋がりがある」という謎の記事も出ているのがよく分からない…。

DNA from ancient population in Southern China suggests Native Americans’ East Asian roots
https://www.eurekalert.org/news-releases/958575

元論文を見てみると、「アメリカに渡った初期の人類と【間接的な】繋がりがある」という話で、そりゃ東アジア住人はほぼ全員、どっかで繋がりがあるから当たり前じゃね? という感じである。ちなみにアメリカ大陸への最初の渡航は早ければ3万年くらい前、コンセンサスの取れている年代だと1万6年年くらい前なので、1万4千年前だと、もうとっくに最初の集団はベーリング海峡を越えている。

海峡を渡った集団の元いた場所、母集団の位置はシベリア東部と考えられている。
この母集団から分かれた一部は、北海道あたりから南下してきて日本列島にも入っている。すなわち、我々日本人の中にもその遺伝子は残っているし、いわば日本人も「アメリカ先住民と遠い親戚関係」ということが出来る。そのくらい広くて大雑把な話なのだ。


というわけで、元論文を軽く見てみよう。

A Late Pleistocene human genome from Southwest China
https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(22)00928-9

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中国南部地域に特有のDNAを持ってるという話は、まあ順当なのだが、順当すぎて少し不安になる。
古い骨だと核DNAよりミトコンドリアDNAが検出しやすいので、それで分析するのは王道。とはいえ今までさんざんDNAの抽出に失敗してきた骨だし、そもそも中国南部の気候ではDNAの残りは悪いはず。そんなにキレイなデータがとれるわけないよな…という感じ。

自分も専門家ではないので、このあたりが許容範囲なのかどうかがすごく気になった。
要は一部で汚染されたと思われるDNAが検出されていること、現代人の遺伝情報が混じっちゃってる可能性があるということ。誤差範囲だから大丈夫だろってなってるけど、欠損だらけの古代のDNAと、ほぼ完璧な現代のDNAだと、後者のほうが増幅されやすくなってしまう。

"The estimated modern DNA contamination rates are 0.72% for nuclear DNA and 5.88% for mitochondrial DNA (mtDNA) (Data S1A and S1B), together indicating low-level modern DNA contamination."


未知のヒト種ではなく現生人類というのはいいとして、ネアンデルタール人やデニソワ人との混血比率が現代の南中国の人と同じというのは、なんか現代のDNAで汚染された結果だったりしないんだろうか。見た目が古代人っぽい件は単なる「個性」で済ませてしまっていいものか。(まあ確かに現代人でも顔の造形は個性があるけれども)

というわけで、結果としては順当なのだが、なんか以前から言われていた無難な説に合わせて結果を整形してきてないか?? という妙にしっくりこない感じが残る話であった。