知られざるロシアの中の多民族世界「アジアとしてのシベリア」

ロシア、と聞いてみんながイメージするのは何処だろうか。
最近はニュースで連呼されることも多く、国自体にネガティブなイメージを持ってる人も多いと思うのだが、そういう時にイメージされているのは、たぶん首都近辺、つまりヨーロッパのすぐ隣にある人がたくさんいる地域のことだと思うのだ。

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ロシアは広大で、隣接する文化圏もいくつかに分かれている。「ヨーロッパ的な」ロシア、肌が白くて金髪で鼻の高い人たちがいる部分は、かなり西よりのごく一部で、人口は多いが民族的には後から入ってきた人々に過ぎない。
そして残り大半が、様々な先住民が織りなす多民族の世界。今回見つけた本は、その多民族部分、広義には「シベリア」と呼称される地域の様々な文化研究を集めたものになる。

アジアとしてのシベリア―ロシアの中のシベリア先住民世界 (アジア遊学 227) - 永山ゆかり, 吉田睦
アジアとしてのシベリア―ロシアの中のシベリア先住民世界 (アジア遊学 227) - 永山ゆかり, 吉田睦

この本を読むまで、シベリアの文化圏は人も少ないしだいたい均一な感じなのかなと思っていたのだが、全然違っていて地域ごとに差異が大きい。語族だけでも多岐にわたる。というか、少数民族だけで成り立つ独立系の語族もある、というのは驚きだ。(この現象は、ある集団が他の集団から離れて暮らしていた時間が長いために起きていると思う。)
サハ語くらいは聞いたことあったけど、ユカギール語なんてはじめて聞いた…。

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なお、ほとんどの言語の使い手はロシア語とのバイリンガルであり、独自言語の話し手は減りつつあるのだという。
ロシアとウクライナの戦争で戦死する兵士には少数民族出身者が多いとも言われているが、その”少数民族"の一部は、これら日本に近い極東の民である。そう思って報道を見てみてほしい。

面白いのは文化のつながりで、シベリアの南のほうだとロシアといより完全にモンゴル。織物の織り方などもヨーロッパの伝統とは違う。
ロシアがポーランドを支配していた時代にやってきたポーランド系移民が作った入植地もあり、現代でもポーランド系住民がほとんどの町がある、とかも全然知らなかった。
あと「シベリア送りだ」の有名なセリフのとおり、極東はロシアの中でも辺境なので、かつて流刑者として送り込まれた人たちの子孫もいるという。
さすが広い国は国民の出自も色々、なんである。

この本を読みながら、「そもそもロシアとは何なのだろう」という不思議な気持ちも湧いてきた。
現在の支配民族はスラブ系のヨーロッパ人で、彼らはいわば後からロシア人になった人たち、とも言える。しかしシベリア住民の多くは、そのずっと前、おそらく数万年単位での昔から今の場所に暮らしてきた人々の子孫なのだ。
そして、文化も素性も何もかも違うままに、国境で一括りにされた同じものとして言及されているわけだ。



ちなみに、自分にとって一番馴染みのあるロシアのイメージはバイカル湖周辺のアジア文化圏になる。一時期モンゴルの先史時代の文化を調べていて、クルガンなどの遺跡の資料を探していたとき、かなりの数が現在のロシア領になっていてロシア語の資料しか出てこなくて読めなくて泣いた。
なのでヨーロッパ的なロシアはどちらかというとあまり具体的にイメージがわかず、疎遠な印象になっている。
「アジアとしてのシベリア」という本のタイトルは、むしろ「そういやロシアって世の中的にはアジアじゃなかったな…」と、思い出す切っ掛けにもなったのであった。