ウェールズ伝承「海に沈んだ国」は高波で侵食された? 古地図の研究で可能性が示唆される

ボドリアン図書館が所蔵する英国最古の地図、ゴフ地図 Gough Map (13-14世紀のもの)に、伝説上の「失われた王国」が載っているかも、という研究があって、面白そうだなと思ったのでちょっと拾っておく。

元論文
The ‘lost’ islands of Cardigan Bay, Wales, UK: insights into the post-glacial evolution of some Celtic coasts of northwest Europe
https://journals.lib.unb.ca/index.php/ag/article/view/32596

問題のゴフ地図とは
https://en.wikipedia.org/wiki/Gough_Map

Gough_Kaart_(hoge_resolutie).jpg

問題の「失われた王国」とは、Cantre'r Gwaelod カントレール・グウェロッド という王国で、他でいうと「イスの王国」の伝説に近い。
ある日、酔っ払った王子が水門を開いたままにしておいたので海の水が流れ込んでしまい、一夜にして水没した。海の底に沈んだ王国の鐘は、危機が迫る時は今でも鳴り響いている。という、どこかで聞いたようなありふれた伝承内容なのだが、実際に海に沈んだ干拓地または大きめの島はあったのでは? というのが今回の話になる。

伝承内容
https://en.wikipedia.org/wiki/Cantre%27r_Gwaelod

ちなみに、王国が沈んだとされるのはウェールズ西側のカーディガン湾で、この辺りは氷期には氷で覆われていた地域だという。
海水面も今より低く、堆積物があった。しかし氷期が終わり、海水面の上昇と海岸線の後退により侵食が進み、陸地が島嶼化していった。失われた2つの島は、そんな中で侵食が進んで失われたのではないか、というのだ。

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ただし、ゴフ地図自体はそれほど正確な書き方はしていない。たまたま現在はない島を描いちゃった可能性もゼロではない。
この地図をどこまで根拠のあるものとして扱うかについては研究者によって意見が割れている…という話が以下の記事に出てくるのだが、私個人としては、まぁ伝承の現実としてはアリかなと思う。
というか、この地図が描かれたのが13-14世紀頃で、その頃まで島が辛うじて海の上に出ていて、たとえばハリケーンの夜に侵食されて一夜にして消えてしまった、とかであれば、沈んでしまった島が伝承化するのは大いに有り得る話だと思うまだ。

Medieval map of Britain may reveal evidence of mythological islands
https://www.livescience.com/lost-islands-mythical-landscape-wales

なお、日本にも「祟りで一夜にして沈んだ」とされる瓜生島(うりゅうじま)の伝承がある。
台風や地盤沈下、地震などで失われる島は世界各地にあるだろうが、どの伝承もだいたい似通った筋書きで解釈されていくのは、非常に面白い現象だと思う。