ロバの家畜化起源地は東アフリカか。DNAの研究で示唆される

今までウマとかイヌとかネコとかの家畜化起源地論争は取り上げてきたけど、そういやロバって無かったなぁと、ついでに拾っておくことにした。
現代のイエロバと古代のイエロバのDNA分析から、ロバの家畜化の起源地は東アフリカで、かつ他の地域では家畜化されていない可能性が高い、との研究結果が出された。
なぜ現代と古代のものを両方調べているのかというと、古代には様々な種類がいたのに現代には生き残っていない可能性もあるからである。より古い時代の、離れた地域のロバの遺物(骨など)から抽出したDNA型を調べ、全部似通っていれば、起源地は1箇所だろうと推測できる。別々であれば、複数箇所で家畜化されたのだろうという結論になる。

要約記事
DNA reveals donkeys were domesticated 7,000 years ago in East Africa
https://www.sciencenews.org/article/donkey-domestication-dna-east-africa

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元論文
The genomic history and global expansion of domestic donkeys

前提知識として、ロバは家畜化されたイエロバと、野生のままのノロバが別々に存在する。交雑は可能だが生殖能力を持たない子供が生まれる。つまり、その程度には遺伝的に異なっている。

※参考として以下の本にロバの交雑についての資料がある。

野生馬を追う
野生馬を追う 増補版:ウマのフィールド・サイエンス - 木村 李花子
野生馬を追う 増補版:ウマのフィールド・サイエンス - 木村 李花子


今回、収集されたDNA情報は以下のとおり。

ブラジルから中国までの31カ国に生息するロバ 207サンプル
4000年前~約100年前のロバ 31サンプル
野生のウマ科動物 15サンプル


現在、野生のロバが生息しているのは、中央アジアとアフリカの一部である。
そのため、どちらかが起源地なのではと考えられてきた。
また、家畜ロバの最古の情報は古代エジプトの壁画や遺物に代表されるようにアフリカに多いため、アフリカが有力視されてきたという経緯が売る。

今回の研究での結論は、アフリカのほうが起源地で、かつ東アフリカの「アフリカの角」と呼ばれている地域、つまりナイル最上流のエチオピアや、海に面したエリトリア、ソマリア、イエメンなどのあたりではないかとなっている。

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見てて思ったのが、起源地にはなってないけど、エジプトのロバもけっこう、「最初に家畜化されたロバ」が当てはまるポイントに近い位置になるんだな、ということ。家畜化された場所がナイル上流だったのなら、家畜化されて間もない時代のロバが輸入されていたかもしれない。

そして、約7000年前というと、サハラの砂漠化が進みつつあった時代である。そしてエジプトでは、砂漠の中のオアシスや水場、石材や塗料などの資源が得られるポイントに通うためにロバを利用していた。気性の荒いラクダが家畜になるのは紀元前1000年以降のことになる。それ以前は、砂漠を渡る乗り物といえばロバだった。
また、現在こそ車社会となっているエジプトだが、20年ほど前まではお手軽な乗り物として町中でもロバをよく見かけたものだった。

もしかしたら、エジプトに生きるロバたちの中には、ファラオ時代を生きてきたロバたちの末裔がひっそり生きているのかもしれない。


なお、例によってまとめサイトや一般向け記事では「飼育化されたロバの起源地が判明!」のような書き方をされることがあるが、たった一本の論文や研究で確定する結果などない。今後、他の学者などの再検証、エビデンス集めによって、この内容が妥当かどうかが吟味される。現状では「可能性が高いとされた」くらいの認識でいいと思う。

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◆参考、他の動物の場合

また猫飼育の起源の論文「猫飼育は一万年前!」 →DNAだけではその証拠は得られない
https://55096962.seesaa.net/article/201706article_21.html

またですか。飼い犬の起源はきっとシベリア! 的な説が出る。
https://55096962.seesaa.net/article/202101article_20.html

家畜化された馬の起源論争、ついに決着か。現代に繋がる主流の馬の起源地が特定される
https://55096962.seesaa.net/article/202110article_18.html