古代エジプト人は墓の天井の曲線をどうやって作ったか。意外に簡単だったのでは? という論文

古代エジプトの墓の天井(ヴォールト)の曲線、とは、たとえば、こういう感じのやつのこと。
この美しい左右対象の曲線を、どうやって描いていたか? という論文を見つけたので、備忘録代わりに書いておこうと思う。

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An elegant vault design principle identified in Old and New Kingdom architecture
https://www.researchgate.net/publication/318766933_An_elegant_vault_design_principle_identified_in_Old_and_New_Kingdom_architecture

作り方はこう。

(1) 墓の幅の中間点を決める(ここでは幅12キュービットなので6キュービット)
(2) そこを中心に、3:4:5の直角三角形を造る
(3) 5の辺の長さの円弧を天井にする

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3:4:5というのは、ピタゴラスの定理である。
彼らはこの定理に相当する原理を既に知っていたわけだが、これは不思議なことではない。古代エジプトでも、メソポタミアでも、すでに定理の原型となる理論が知られていたことは研究されている。

古代エジプト人もピタゴラスの定理に相当する何かは知っていた。古代世界の数学事情
https://55096962.seesaa.net/article/202108article_11.html

この理論をのちに完成させた(あるいは改良した)のが古代ギリシャ人なのだ。


また、墓の天井を曲線にするのは主に新王国時代だが、それ以前からこの曲線を描く手法は知られていたのでは、という話も最後の方に出てきた。
古王国時代のジェセル王のピラミッド地下の青タイルの壁面に作られた曲線も、同様の描き方で出来るという。

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この時代に出ている遺物には、幅に対して水平に張った縄から円弧まで、どれだけの長さをとればいいかが記されている。

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たとえば「3キュービット 3パーム 2ディジット」はディジット尺に換算すると98ディジット。
次の「3キュービット 2パーム 3ディジット」は95ディジット。
このとおりに長さをとっていけば、円弧が出来上がる。

墓の天井の場合も、これと同じように数値をとっていけば綺麗な円弧が完成するというわけだ。

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※ちなみに古代エジプトの単位まとめはこちら
※ディジット=腕 パーム=手のひら ディジット=指 の文字で表される単位。

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なお、古代エジプトの建築に使われている曲線の角度を変えるのには、カテナリー曲線を使えばいけそうだ。
糸の中心に重しを垂らした時に出来るたわみのことだが、重さを変えればたわみ方も異なる。
真円ではなくややたわんだ形だったり、ちょっと平たい感じの円弧だったりするさじ加減は、複雑な幾何学の知識がなくても「中心点から直角三角形つくる」という単純なやり方さえ知っていれば調整出来てしまう。

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複雑に見える技術が実は、コツさえ知っていれば単純な道具で簡単に再現出来てしまう、というのは、なかなかおもしろい。
もちろん古代エジプト人が本当にこの方法を使ったかどうかは、記録も証拠もないので推測になってしまうが、実際にこの方法で墓の天井と同じ曲線が作れるのなら可能性は高いと思う。

古代世界にタイムスリップした時に求められるのは、自分しか出来ない複雑な計算工程や特殊知識よりは、こういう誰でも使える簡単な技なんだろうなぁ…とか思った次第。