古代の環境破壊;ティムナ渓谷の銅産業と周辺の森林の消滅について
古代エジプトの王たちも利用していた、シナイ半島とアラビア半島の狭間にあるティムナ渓谷の銅鉱山は、その稼働のために大量の木材を切り出して砂漠化したために操業を停止したのでは。という論文が出ていた。
もっとも、その程度で操業停止する必要はなく、掘り出した鉱石を別のところに持っていけばいいだけなので、周辺の森林が消えたくらいでは理由にならないと思うのだが、植生の変化を銅精製の時に出る滓(スラグ)で判別しているのが面白いなと思ったのでメモっておく。
元論文
Fuel exploitation and environmental degradation at the Iron Age copper industry of the Timna Valley, southern Israel
https://www.nature.com/articles/s41598-022-18940-z?utm_medium=affiliate&utm_source=commission_junction&utm_campaign=CONR_PF018_ECOM_GL_PHSS_ALWYS_DEEPLINK&utm_content=textlink&utm_term=PID100052172&CJEVENT=62ffd340425a11ed83c038ba0a1c0e11
サマリ的な記事
King Solomon's mines were abandoned and became a desert wasteland. Here's why.
https://www.livescience.com/king-solomon-mines-depleted-firewood
内容的にはそれほど複雑ではなく、燃料として使われた木材の滓から種類を特定している。この地域は本来、イトスギやアカシアの生育する地域に隣接しており、近場で木炭にする木材を得られるはずだったのだが、時代が進むにつれてより遠くから木材を運び、かつ種類も、あまり木炭づくりに適さないピスタシアやビャクシンなどの低木まで利用するようになっていった、ということのようだ。
エジプトが利用→エドムが入り込む→操業停止→ローマ時代に縮小されて再開、という流れは、近くにある他の銅鉱山と同じ。
ただし、ここには鉄器時代への変化という要因も絡んでいる。紀元前1000年頃にエジプトが撤退した頃、エジプトの国力が衰えていたのもあるが、ちょうど東地中海世界は本格的に鉄器時代へ突入しようとしていた。つまりは、軍事用途での銅の重要性が下がりつつあった。
なので、この銅鉱山の操業状況を燃料不足や環境破壊だけに結びつけるのも、それを要因に持ってくるのも、正直、「考察甘いな、、、」という感じがする。
というか本当に必要なら、銅鉱石をよそへ運んで精錬すればいいだけなので。
ただし、それが出来るのは広大な領土を持つ帝国に限られる。エドムのような地域に根ざした小国では不可能だろうが、かつてのエジプトや、のちに操業を再開させるローマならそれが出来た。
従って、この地域の銅山の操業が停止する理由は、まず第一に「地域の政情」、次に「鉄器という技術の登場」に求めるのが妥当だろうと思う。
ちなみに「ソロモンの鉱山」というのはいつもの例のアレ(特に根拠なく伝説的な人物と結び付けられた呼称)なので、特に気にしなくてもいい。
同じようにソロモンの鉱山と呼ばれる鉱山にヒルバト・アッナハスがあり、こちらも実際は古代エジプトの王たちが最初に利用している。
ちなみに、リンク先の記事にも書いたように、ヒルバト・アッナハスのほうでは土壌汚染の調査もされていて、長年のうちに蓄積された土壌の銅や錫の残存量が異常に高く、それも砂漠化や動植物の生存に制限をかけているという。
現代のように「環境に配慮」とかの感覚のない時代、鉱山の操業は、つねに環境破壊とセットになっていた。
なぜか「古代は自然と共存出来ていた牧歌的な時代」と考える人も多いのだが、そんなことはない。むしろ古代世界のほうが環境負荷の高いむちゃくちゃをやっている。ただ、人間が少なく、今のように機械などもないから、そのペースが遅めだったというだけのことなのだ。
***********
あと参考で
古代エジプトの銅輸入ルートの変化についての覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_5.html
「世界で最初に銅器を生産しはじめたのは北米インディオ」という現実。(おそらく今後は定説化するはず)
https://55096962.seesaa.net/article/202103article_19.html
もっとも、その程度で操業停止する必要はなく、掘り出した鉱石を別のところに持っていけばいいだけなので、周辺の森林が消えたくらいでは理由にならないと思うのだが、植生の変化を銅精製の時に出る滓(スラグ)で判別しているのが面白いなと思ったのでメモっておく。
元論文
Fuel exploitation and environmental degradation at the Iron Age copper industry of the Timna Valley, southern Israel
https://www.nature.com/articles/s41598-022-18940-z?utm_medium=affiliate&utm_source=commission_junction&utm_campaign=CONR_PF018_ECOM_GL_PHSS_ALWYS_DEEPLINK&utm_content=textlink&utm_term=PID100052172&CJEVENT=62ffd340425a11ed83c038ba0a1c0e11
サマリ的な記事
King Solomon's mines were abandoned and became a desert wasteland. Here's why.
https://www.livescience.com/king-solomon-mines-depleted-firewood
内容的にはそれほど複雑ではなく、燃料として使われた木材の滓から種類を特定している。この地域は本来、イトスギやアカシアの生育する地域に隣接しており、近場で木炭にする木材を得られるはずだったのだが、時代が進むにつれてより遠くから木材を運び、かつ種類も、あまり木炭づくりに適さないピスタシアやビャクシンなどの低木まで利用するようになっていった、ということのようだ。
エジプトが利用→エドムが入り込む→操業停止→ローマ時代に縮小されて再開、という流れは、近くにある他の銅鉱山と同じ。
ただし、ここには鉄器時代への変化という要因も絡んでいる。紀元前1000年頃にエジプトが撤退した頃、エジプトの国力が衰えていたのもあるが、ちょうど東地中海世界は本格的に鉄器時代へ突入しようとしていた。つまりは、軍事用途での銅の重要性が下がりつつあった。
なので、この銅鉱山の操業状況を燃料不足や環境破壊だけに結びつけるのも、それを要因に持ってくるのも、正直、「考察甘いな、、、」という感じがする。
というか本当に必要なら、銅鉱石をよそへ運んで精錬すればいいだけなので。
ただし、それが出来るのは広大な領土を持つ帝国に限られる。エドムのような地域に根ざした小国では不可能だろうが、かつてのエジプトや、のちに操業を再開させるローマならそれが出来た。
従って、この地域の銅山の操業が停止する理由は、まず第一に「地域の政情」、次に「鉄器という技術の登場」に求めるのが妥当だろうと思う。
ちなみに「ソロモンの鉱山」というのはいつもの例のアレ(特に根拠なく伝説的な人物と結び付けられた呼称)なので、特に気にしなくてもいい。
同じようにソロモンの鉱山と呼ばれる鉱山にヒルバト・アッナハスがあり、こちらも実際は古代エジプトの王たちが最初に利用している。
ちなみに、リンク先の記事にも書いたように、ヒルバト・アッナハスのほうでは土壌汚染の調査もされていて、長年のうちに蓄積された土壌の銅や錫の残存量が異常に高く、それも砂漠化や動植物の生存に制限をかけているという。
現代のように「環境に配慮」とかの感覚のない時代、鉱山の操業は、つねに環境破壊とセットになっていた。
なぜか「古代は自然と共存出来ていた牧歌的な時代」と考える人も多いのだが、そんなことはない。むしろ古代世界のほうが環境負荷の高いむちゃくちゃをやっている。ただ、人間が少なく、今のように機械などもないから、そのペースが遅めだったというだけのことなのだ。
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あと参考で
古代エジプトの銅輸入ルートの変化についての覚書き
https://55096962.seesaa.net/article/202107article_5.html
「世界で最初に銅器を生産しはじめたのは北米インディオ」という現実。(おそらく今後は定説化するはず)
https://55096962.seesaa.net/article/202103article_19.html