メソポタミアの古都市ラガシュは「ベネチア式」の街だった、都市の発展についてのモデルが見直される結果に

メソポタミアは、現代のイラクでティグリス川、ユーフラテス川の下流付近の地域を指す。
統一された国家は長らく登場せず、初期には都市ひとつずつが国家の役割を持つ、いわば「都市国家」群の時代があった。その中の一つ、河口に近い場所にあったラガシュという都市についてのサーベイが進んでいる。

河口のため現在では泥の下に埋もれている都市遺構を、ドローンを飛ばして上空から広域的に調査することで、かつてそこが水路に繋がれた島群だったことや、島ごとに役割が違っていたらしいことなどが分かってきたという。おそらくヨーロッパでいうベネチアのような、島の集合体としての水上都市だったのでは、と。

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Drone photos reveal an early Mesopotamian city made of marsh islands
https://www.sciencenews.org/article/mesopotamia-city-marsh-islands-drone-lagash-iraq

現代の写真を見ても、ただの干潟なので何も見えない。
しかし上空からのデータを解析すると、埋もれてしまった水路などが見えてくるという。大きな島が4つほど、他にも小さな島が集まって出来ている。一つの島は神殿が建てられていたようで、農業の島や宗教の島など役割が別れていたかもしれない。

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ラガシュの位置はココ。河口なので、ベネチアと立地条件はたしかに似ている。

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で、この研究の面白いところは、従来の「ムラから街へ」という発展ではないのでは? という疑問を提示しているところだ。

従来はまずムラ的な集落があり、そこから街へと拡大して巨大な神殿が作られ、都市へと発展していく…というのがメソポタミアの都市国家成立のモデルだった。しかしラガシュの場合は、どうも最初からいくつもの島の集合体として成立していた可能性があり、島によってある程度の役割分担がされていそうなので、複数の中心地を持つマッシュアップ的な地域、要するに最初から「小規模な領域国家」みたいな感じだった可能性がある。

あるいは、一つの島にだけに住んだ人間が少しずつ周囲の島にも広がっていった、とかじゃなく、最初から近くの島に広がって暮らしていたのが後から合体していった、みたいな感じかもしれない。

どの文明も、ムラ社会から国家が成立していく過程というのは謎が多い。エジプトもそうで、なぜ人々が「国家」という政体を求めるようになったのかが分からない。
この調査が、その謎の答えを探すひとつの材料になればいいなと思っている。




ドローンやUAVが考古学に使われるようになってもう10年は経つが、この技術はかつて人海戦術でしか行えなかった広域調査をお手軽に可能にしてくれている。また、衛星画像からでは見えてこない、地表に近い部分で採取したより精密な上空からの情報をすぐに手に入れることも出来るようになった。
戦争や犯罪に使われることもあり、何かと危険視されるドローンも、使い方次第では非常に役に立つんだよな…というのを、改めて認識した研究だった。