モザイク画ではない「床絵」、紀元前1500年世界のエジプトの床装飾

床絵、というと無条件にモザイク画を思い浮かべる人も多いと思うが、ガラスの小片を埋め込むモザイク画の大画面は、当然ながら、狙った色のガラスを大量生産できるようにならなければ登場しない。
それ以前の世界では、「床絵」=床に漆喰塗った上に絵の具で絵を描く、という手法になる。

遺物の残りのいい古代エジプトではいくつかの実例が発見されている。
最も保存状態がいいものはアクエンアテンが築いて短期間しか使われなかったアマルナの都の王宮の床絵。

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これでも一部だけで、発見後の1912年、見学者が近隣の畑を踏み荒らしたのに怒ったご近所の人に叩き壊されている。現在の展示は、復元後のものとなっているが、それでも、広大な面積を埋め尽くす豪華な絵の雰囲気はわかると思う。

漆喰の上に描いたものだと、上を歩いていたら消えるんじゃない? と思うかもしれないが、そのとおりで、この床絵も一度描き直した跡があるという。人の出入りが少ない、あるいは限られた人しか出入りしない王宮だからこそ床前面に描いたのだとは思うが、それにしても手間はかかっている。普通に水ぶっかけて掃除できないだろうし、メンテも手間かかりそう。

床絵については、アクエンアテンの先代にあたるアメンヘテプ3世のマルカタ王宮でも見つかっているため、第18王朝のスタンダードだったと考えることも出来る。おそらく、現存しない他の王宮や王家関連の施設にも床絵はあった。

それがモザイクの床絵に置き換わっていくのは、ガラスの大量生産が出来るようになる時代から…なのである。