古代エジプト人が墓に入れた「平たい女性像」とその役割

英語で「Paddle Doll(パドル・ドール)」と呼ばれる古代エジプトの遺物がある。
古王国時代の末期から、中王国時代(主に第12王朝)にかけて作られ、墓に納められた木製の平たい女性像である。
女体というにはかなりシンプルで、一見してオモチャのようにも見えるが、実はこれ、れっきとした大人用品、いわば宗教的なアダルトグッズなのである。

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https://www.metmuseum.org/art/collection/search/544216?exhibitionId=%7B36BFD863-BD71-4D58-B1B2-F3F865084DBB%7D&oid=544216&pkgids=331&pg=1&rpp=60&pos=48&ft=%2A

まず前提として、エジプト神話の中に「活力の衰えた太陽神ラーを、娘ハトホルが女性の魅力を持って慰めやる気を取り戻させる」というストーリーがある。愛や音楽の女神であるハトホルは、男性に精力を取り戻させる女神でもあった。

この像は、ハトホルの踊り子たちをかたどったもので、死者があの世で復活するために必要なヤル気を取り戻させる神聖な…その、なんだ。現代的な意味で言うとエロフィギュアに近いような感じの道具だったのでは、とされている。

ただし、エジプト全土でこの人形が埋葬されていたわけではなく、デイル・エル・バハリ周辺など限られた土地での信仰のようではある。

https://www.researchgate.net/publication/301531643_Paddle_dolls_and_performance_in_ancient_Egypt#pf23

実際にハトホル女神の巫女はこの人形のような入れ墨を体に入れていたようで、模様はセクシャルシンボルだった可能性がある。
また髪の毛がもじゃっとつけられているのも、古代エジプト世界では髪の毛にエロティシズムを感じる文化があったからだと思われる。(あの手の込んだかつらや、「インプとバタの物語」で流れ着いた髪の毛にファラオが懸想するシーンを思い出してもらいたい)

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現代は、何かにつけて性欲が悪者扱いされ、人前であからさまにすることを憚られるシーンが多い。
しかしながら生殖は人間の基本であり、生命力の源でもある。性欲がないと死後の世界でも復活できず魂が死んでしまう、古代エジプトはそういう世界だったのだと思う。
古代の人々は、墓にこの人形を入れることで死後の世界でも活力を失わないことを願ったのだ。


…まあなんだ、現代人からすると「こんな靴べらに欲情ってなかなか高度だな」って思うかもしれないんですけど、そこはそれ。
この人形が博物館に展示されていたら、たぶん多くの人は「子供の玩具か何かかかな」と思って素通りすると思うんですが、アダルトグッズだということを知ってしまったあなたはちょっとニヤリとしてあげてください。