古代エジプトの星座、まさかの「お肉ファースト」だった。現存する最古の星座とは

そういや古代エジプトの星座って、時代ごとにちょっとずつ変わっていってる(バリエーション増えてる)んだよなー、最古の星座って何だったっけな? ってちょっと出来心で調べてみたら、なんか意外なのが出てきたぞ。
まさかの。

牛のもも肉座が最古事例だった。

正確に言うと、「南天の星座2つ」「北天の星座2つ」の4つセットが現存する最古事例で、第一中間期のイディさんの木製の棺の蓋に描かれていたもの。それがこちら。

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http://www.enim-egyptologie.fr/revue/2019/8/Priskin_ENiM12_p137-180.swf.pdf

北天の星座が「天」の文字を頭上に載せたヌト女神、北斗七星と同定されている牛のもも肉座ことメスケティウ。
南天の星座がオシリスの化身とされるサァフ、イシスの化身とされるソペデト。サァフはオリオン座、ソペデトはシリウス星の化身とされている星座だ。

ヌト女神は、のちに星座ではなく「銀河そのもの」という思想に変わるため星座としては描かれなくなるが、残り3つはプトレマイオス朝まで描かれつづける。特にサァフとソペデトは重要な夫婦神として登場し続ける。つまりは、この最古事例の4つの星座は、どれも重要なものでありつづけたのだ。

牛のもも肉も含めて。

いや、ていうか、この並びで登場するなら、牛のもも肉、もはやそれ自体が「神」なのでは…? (※実際、末期王朝時代には「もも肉」ではなく「聖牛」として星図に登場することもあった)


いやまさかの、こんな古い時代から重要だったんだな、もも肉座。
だがしかし、北斗七星である。星空の中では確かに目立つし重要な並びには違いない。

ちなみに、この星座が作られたと考えられるのは第一中間期に先立つ古王国時代、ピラミッドを作っていた頃で、その頃は地球の歳差運動によって北極星の位置が今とは違っていた。 そして、エジプトから見える星空では、北斗七星は地平に沈まず一晩中空を巡る、”不滅の星々"の仲間だったのである。

永遠なるお肉。夜空に輝ける神聖なるもも肉。なんというロマン。
古代エジプト人にとって牛肉はそれほど重要だったのだ。


ちなみに、最後にまじめな話しをしておくと、古代エジプトの星座の中で、実際の星の並びが特定されているものは少ない。
それは星図が、夜空の星の位置と正確に一致しておらず、宗教的な意味合いをもった並びを重視して描かれているからだ。古代エジプト人にとっては、星座は現実世界の星空を示すものではなく、思想上、あるいは「死後の世界」のような宗教世界の地図だったらしい。
それが、棺の内部や墓などに星図が描かれた理由だとされている。

古代エジプト人の星空は、現実世界を写しながら、完全に現実世界のものではない。
夜空の星を現実世界の航路の目印にしていた海洋民族などとは違い、死後の世界の闇をゆくための指針としていた、と解釈すると分かりやすいかもしれない。