ありし日のマタギ文化と知られざる山岳信仰の世界「マタギ 日本の伝統狩人探訪記」

図書館でいつものように適当に本を漁っていたら表紙が渋い本を見つけてしまい、ゥワァー! スケベなマタギだーー! と勢いで借りてしまった。
東北・秋田のマタギ村で、昭和30年代から50年代あたりに見聞きした内容が中心となっている随筆集だ。厳密な民俗学資料ではないものの、今はもう消えてしまったか薄れてしまったマタギという職業に特有の習慣や文化を知ることが出来る。

※マタギ=スケベという概念は某人気漫画から来ている
※知らない人は決してググってはいけない。胸毛と脇毛のセクシーなふんどしの男が出てくるので


ヤマケイ文庫 マタギ 日本の伝統狩人探訪記 - 戸川 幸夫
ヤマケイ文庫 マタギ 日本の伝統狩人探訪記 - 戸川 幸夫

マタギというと東北の狩人、という知識しかない人も多いと思うが、厳密に言うと普通の猟師とは少し違うらしい。かつては独特の文化や独自の組織を持ち、猟師だけでも生きていけるほど稼いでいたという。狙撃や山行のプロフェッショナルで、危険な雪山にも分け入っていくタフさ
を持つ人々、という感じか。

現代でも、雪山を人並み外れた技術と知識でガンガン踏破していく超人のような登山家はいるが、それが集団で鉄砲持てクマやシカを狙っているようなものである。そしてそこに山の神への信仰や迷信、儀式が加わる。たとえば山の神は醜女なので女神をなだめるために顔の醜いオコゼの干物をもって入るとか、豆を炒る音で雪崩が起きるからだめだと山に入る前には家で豆を炒らないとか。
現代の雪山登山でも、ゲンを担いだりお守りを持っていったりすることがあるが、それがもっと厳密になった感じの風習である。

中でも意外だったのが、戊辰戦争の話だ。
秋田は政府軍(倒幕側)についたが、そのせいで周りの幕府勢の藩から総攻撃を受けてピンチになったという。
その時に臨時勢力としてマタギも駆り出され、山に慣れ、狙撃に長けた彼らが大いに役立ったという。
調べてみると確かに秋田はかなりピンチな状況だったようで、「秋田戦争」で探せば色々資料は出てきた。人数はさほどでもなかったようだが、戦後に藩から報奨を受け取ったりしているようなので、活躍したのは本当なのだろう。そういう歴史の繋がりもあるのか…と、思った。

現代では、マタギを名乗る人はほとんどいないと思う。
昔ながらの伝統も、この本の最後の方の時点でかなり薄れていたようだし、どのくらい残っているのかはわからない。
しかし、彼らが経巡った山は今もあり、緑をたたえている――日本の山なみは今も昔も美しい。それだけは救いだなと思った。