遺伝子の多様性から探る「飼い猫の起源」。猫の家畜化の始まりは農耕開始とともに

これまで様々に論文の出てきた「飼い猫の起源」について、ひとまず全体的なコンセンサスの取れそうな説が出てきた。
中東起源、リビアヤマネコ(F.s. lybica)からイエネコになった、という既存路線は再確認された。最初の祖先は1万2千年前まで遡り、人間が農耕を始めた時代。かつ場所的にも「肥沃な三日月地帯」の東側、つまり小麦の農耕が開始された場所なので、

人間が定住して農作するようになる→穀物を狙うネズミなどが集まる→獲物を追って人間の側に来る→民家の床下などで繁殖するうちに家畜化する

という流れで、イエネコの祖先が形成されていったと思われる。
そして農耕が近隣の地域、主にナイル川流域とメソポタミアへ広がっていくに従って、イエネコの原種たちも人間にくっついて拡散していった。

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以上が、この論文のザックリしたまとめだ。

Genetics of randomly bred cats support the cradle of cat domestication being in the Near East
https://www.nature.com/articles/s41437-022-00568-4

手法としては、ホモ・サピエンスの出身地や、他の家畜の起源地を探る場合にも使われている「家畜化された場所の近くで最も多様性が高くなる」という考え方。遺伝子は時間によってランダムに変化していく性質があるため、最も変異の種類の多い地域が、イエネコの祖先が誕生してから最も時間の経過している場所、ということになる。

この方法は、これまでの「最も古いDNAを探す」とか、「古い骨サンプルから採取したDNAに近いものを探す」といった手法とは異なっており、ビックデータの解析が可能になった今だからこそ取れる手法だと思う。

結果として、東地中海沿岸の、農耕起源地に重なる場所が最も多様性が高い(黄緑色)という結果になった。
リビアヤマネコもこの黄緑色の範囲内にいる。

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ちなみに、集団から飛び出している灰色のSan Marcos島の猫たちは、近代に持ち込まれていらい島の中だけで繁殖を繰り返しているため、他集団との差異が出来て突出しているのだろう、とのこと。
同じような差は、他の隔離された地域や距離の離れた場所同士でも見られるが、それでも全体的に見れば差異は小さく、全世界の猫たちはゆるく一つのまとまりを示している=起源地は一つ、といえるようだ。

面白いのは、ネコの場合は人が世話をしなくても勝手に住み着くので、イエネコの祖先が誕生してからも、長らく「半ノラ」だっただろう、と言われているところだ。また、その地域ごとのヤマネコと交尾するなどして勝手に地域雑種を作り出してきた。
人為的な交配が始まるのが遅かった(エジプトのネコ飼育の証拠も4000年前)ために、イヌほど見た目が多種多様にはならなかったのだ。


――というわけで、これまでの研究全部入り、という感じの結果になったわけだが、この結果を踏まえるに、「イヌは人につく、ネコは家につく」と言われるのは、そもそも家畜化された経緯が「イヌ=狩猟採集時代のお供、ネコ=農耕牧畜時代のお供」だったからなのだ。
イヌは移動生活の中で家畜化され、ネコは定住生活が始まったことで家畜化された。

つまりは、最初からイヌとネコで人間に求めるものが違っていた、とも言える。
イヌは効率よく狩りの出来る群れのリーダーとしての人間を求め、ネコは暖かくて餌のいっぱい居る住処を提供してくれる存在としての人間を求めた。あーあー、なんかそうまとめるとめっちゃ理解できた。イヌさん人間側が頼りないとすぐ見限るし、ネコさん飯が無いとめちゃくちゃキレるもんな…。


ネコと人間の関係は、たぶん1万年以上前から始まっていた。
ただし撫でさせてくれるほどデレるようになるまでは何千年かかかり、さらに世界中に大大的に広まり始めたのもおそらく三千年ほど前からだった。

今後、各地域での混血などの細かい研究は出てくるだろうが、大筋はこれであまり変わらないかなと思う。