アマルナ時代のエジプト美術から読み取れる野鳥たち/宮殿壁画の読み取り方
アクエンテアンが築いたアマルナの都は、居住した時間が短く、かつアクエンアテンの死後は求心力を失って速やかに放棄されたため、保存状態が良い。
かつての王たちの宮殿が残っている場所は、現代の大都市が上に乗っかっていない僻地に限られる。
そんな貴重な宮殿壁画から、描かれている野鳥の種類を特定しようとしている研究があった。なお、宮殿壁画は緑地と鳥や魚といった庭園のような風景が描かれることが多い。これは砂漠の多い土地柄ならではの好みだろう。かなりリアルに描かれているため、やろうと思えば植物の種類も特定は出来る。
Pigeons and papyrus at Amarna: the birds of the Green Room revisited
https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/pigeons-and-papyrus-at-amarna-the-birds-of-the-green-room-revisited/A4C4E5C0EDEF5B8C57FE1556BD75F798
壁画の場所はここ

たとえば、この壁画のいちばん上でエサを食べている灰色の鳥は、ハイイロガン(Anser-anser)と特定されている。越冬のためにヨーロッパからアフリカ北部に渡ってくる渡り鳥だ。それを捕まえて、エサをやって太らせているのだろう。おそらく食用にするためだと思われる。


しかし分かりづらい鳥もいる。下のAが壁画にいる鳥なのだが、鳥の頭部の模様はハクセキレイとモズの両方の特徴があるように見えて、意見が割れている。この論文の著者は「たぶんハクセキレイとするのが妥当」としている。しかしハクセキレイが描かれた壁画は他に例があまり知られていないという。

(A) from the facsimile painting of the east wall of the Green Room
(B: male, winter), African pied wagtail (M. aguimp)
(C: winter) and masked shrike (Lanius nubicus)
(D: male) (redrawn by the authors after Porter & Aspinall (Reference Porter and Aspinall2010), Hollom et al. (Reference Hollom, Porter, Christensen and Willis1988) and Lefranc & Worfolk (Reference Lefranc and Worfolk1997), respectively).
古代エジプト人が一番好んだ鳥は、やはり「鳩」、そして「鴨」だった。
食べ物としても人気、そこらによくいる身近な鳥。特にハトは描かれている種類が多いという。エジプトものの創作では王宮に描く鳥はワシとかタカとかやたら荘厳な鳥が多いのだが、居住区にはもっと身近でほっとする鳥、ハトを描いておくべきなのかもしれない。
なお、この論文では、古代エジプト美術のいくつかの特徴も指摘されている。
●鳥は特徴がわかる方向からしか描かれない。(これは人物の向きがほぼ一定なのと同じ理由と思われる)
●大きさはリアルではない。(これも人物壁画と同じで、重要度によって画面上の大きさを決めている)
●鳥の実際の生息域が砂漠でも、緑地の絵に入れたければ入れる。眼の前にある風景に忠実ではなく、あくまで「理想の世界」。
●鳥がパピルスの細い枝に止まっていてもパピルスが何故か折れていない、など、空想的なシーンもある。
鳥単体、植物単体だとリアルに描かれているが、全体としては理想的な配置を優先した架空の世界、ということだ。
その意味では墓内部の壁画と用途は一致している。どちらも、専属の絵師を雇って描かせたものなのだと思われる。
****
論文中でも指摘されている類似研究
古代エジプト・古王国時代の壁画の鳥、絶滅種かもしれないという説が出される
https://55096962.seesaa.net/article/202102article_19.html
かつての王たちの宮殿が残っている場所は、現代の大都市が上に乗っかっていない僻地に限られる。
そんな貴重な宮殿壁画から、描かれている野鳥の種類を特定しようとしている研究があった。なお、宮殿壁画は緑地と鳥や魚といった庭園のような風景が描かれることが多い。これは砂漠の多い土地柄ならではの好みだろう。かなりリアルに描かれているため、やろうと思えば植物の種類も特定は出来る。
Pigeons and papyrus at Amarna: the birds of the Green Room revisited
https://www.cambridge.org/core/journals/antiquity/article/pigeons-and-papyrus-at-amarna-the-birds-of-the-green-room-revisited/A4C4E5C0EDEF5B8C57FE1556BD75F798
壁画の場所はここ

たとえば、この壁画のいちばん上でエサを食べている灰色の鳥は、ハイイロガン(Anser-anser)と特定されている。越冬のためにヨーロッパからアフリカ北部に渡ってくる渡り鳥だ。それを捕まえて、エサをやって太らせているのだろう。おそらく食用にするためだと思われる。


しかし分かりづらい鳥もいる。下のAが壁画にいる鳥なのだが、鳥の頭部の模様はハクセキレイとモズの両方の特徴があるように見えて、意見が割れている。この論文の著者は「たぶんハクセキレイとするのが妥当」としている。しかしハクセキレイが描かれた壁画は他に例があまり知られていないという。

(A) from the facsimile painting of the east wall of the Green Room
(B: male, winter), African pied wagtail (M. aguimp)
(C: winter) and masked shrike (Lanius nubicus)
(D: male) (redrawn by the authors after Porter & Aspinall (Reference Porter and Aspinall2010), Hollom et al. (Reference Hollom, Porter, Christensen and Willis1988) and Lefranc & Worfolk (Reference Lefranc and Worfolk1997), respectively).
古代エジプト人が一番好んだ鳥は、やはり「鳩」、そして「鴨」だった。
食べ物としても人気、そこらによくいる身近な鳥。特にハトは描かれている種類が多いという。エジプトものの創作では王宮に描く鳥はワシとかタカとかやたら荘厳な鳥が多いのだが、居住区にはもっと身近でほっとする鳥、ハトを描いておくべきなのかもしれない。
なお、この論文では、古代エジプト美術のいくつかの特徴も指摘されている。
●鳥は特徴がわかる方向からしか描かれない。(これは人物の向きがほぼ一定なのと同じ理由と思われる)
●大きさはリアルではない。(これも人物壁画と同じで、重要度によって画面上の大きさを決めている)
●鳥の実際の生息域が砂漠でも、緑地の絵に入れたければ入れる。眼の前にある風景に忠実ではなく、あくまで「理想の世界」。
●鳥がパピルスの細い枝に止まっていてもパピルスが何故か折れていない、など、空想的なシーンもある。
鳥単体、植物単体だとリアルに描かれているが、全体としては理想的な配置を優先した架空の世界、ということだ。
その意味では墓内部の壁画と用途は一致している。どちらも、専属の絵師を雇って描かせたものなのだと思われる。
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論文中でも指摘されている類似研究
古代エジプト・古王国時代の壁画の鳥、絶滅種かもしれないという説が出される
https://55096962.seesaa.net/article/202102article_19.html