アイスランドで最初に焼かれた「魔女」は男性だった。ルーン文字を巡る誤解の悲劇とは

年末に読んでいた「ルーン文字研究序説」に、「アイスランドでルーンの彫られた小刀を所有していた男性が火刑に処せられた」という話が出てたのが気になっていた。もともとはヴァイキングたちが使用していたルーン文字、17世紀には悪魔的な魔術の文字にされてしまっていたのだが、それにしても火炙りとは穏やかではない。自分たちの祖先が使っていた文字なのに、どうしてそんなことになったのか。

というわけで調べてみたのだが、どうやらアイスランドでも魔女狩りをやっていて、その最初の犠牲者がJón Rögnvaldsson(ヨウン・ログンヴァルドソン)という男性だったらしいのだ。悲劇は、自宅にルーン文字を保管していたことから、北欧古代の魔術師Galdrと誤解されたことに始まるようだ。

ウィキペディア英語版
https://en.wikipedia.org/wiki/J%C3%B3n_R%C3%B6gnvaldsson

ほか参考
Icelandic Magic, Witchcraft, and Sorcery and the Tragic Case of Jón Rögnvaldsson
https://www.ancient-origins.net/history-ancient-traditions/icelandic-magic-witchcraft-and-sorcery-and-tragic-case-j-n-r-gnvaldsson-021227

時代は17世紀初頭、ヨーロッパ本土で吹き荒れていた魔女狩りの嵐をアイスランドに持ち込んだのはMagnus Björnssonという人物。
少年が病気になったのを呪いのせいだと思った彼は、不誠実な訴えを信じてJón Rögnvaldssonに有罪判決を下し、これが最初の一人となった。
以降、アイスランドでは120件の魔女裁判が行われたというが、訴えられたのはほとんどが男性だという。これは、古代北欧世界ではルーン文字=北欧神話の神オーディンのもたらしたもの、主に男性が使用するもの だったことと関係していると思われる。ルーン文字を魔術の源とみなしたことで、アイスランドでは、必然的に男性が対象とされたのだ。

しかし、北欧神話の中でも「エッダ」を基準に考えるなら、魔術を使うのは女性とされている。
オーディン自身「女のように魔術を使った」と非難されているのだから。女性の使うセイズなどの魔術は、17世紀には廃れてしまっていたか、あるいは最初に「異端の魔法の象徴」と設定されたのがルーンだったことから、それ以外の魔術は無視されたのかもしれない。

ノルウェーやデンマークでは魔術を禁止する法律が先行で作られ、1630年にアイスランドにも適用されたという。ルーン文字を使った魔術も、この時に途切れた、ことになっている。アイスランドで最後のルーン碑文が作られたのは1681年だというから、ヴァイキング文化が廃れたあとも500年くらいは生き残っていたことになる。けっこうしぶとい。
だからこそ、「異教的なものを排除したい」というキリスト教的な狂信の前でも異端狩りのターゲットになってしまったのだろうが、先祖伝来も文字を使っていただけで、後からやってきた宗教に駆逐されてしまうとは、何ともやるせない話である。

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なお、北欧で最も魔女狩りが激しかったのはノルウェーだったらしいのだが、ノルウェーの魔女狩りでは犠牲者の80%が女性とされており、実際に知られている犠牲者の名前も女性が並んでいる。アイスランドでは犠牲者の10%だけが女性だったようで、他の国より異様に少ない
アイスランドだけ特殊だった事情は、やはり何か土地柄、文化柄的なものが絡んでいるのだと思う。