古代エジプト・トキの墓 数が多すぎて養殖モノじゃ無理だって話

エジプトのサッカラで20世紀なかばに発掘された動物墓、中でも古代(ピラミッドを作っていた時代)の偉人イムヘテプの墓に捧げられたトキのミイラの墳墓は、すさまじい規模を誇っている。トキだけで数百万羽ぶんのミイラが収められていたというのだ。100年使っていたとして一年に2-300羽ぶんのミイラを生産し続けなければならない。

少し前に、このトキが養殖ものか天然ものかという論文が出た時に記事にしていて、結論は「天然ものだろう」とされていたのだが、これ、数を考えると、養殖では不可能なレベルの数だということに気づいてしまった。
…餌代とか飼育ケージがとんでもないことになるので、養殖だとモトが取れない。

古代エジプトの動物ミイラは養殖? 天然? DNA分析と論争の行方
https://55096962.seesaa.net/article/201911article_17.html

というわけで、少しこのトキのミイラの墓について説明しておきたい。
写真とか記事とかは以下あたりを見てもらえばわかる。

https://ib205.tripod.com/ibis_cemetary.html

サッカラの動物墓全般の話だとこのへん

Sacred Animals at Saqqara
https://www.mdpi.com/2571-9408/5/2/64

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なんだか三角形の壺があるように見えるが、これは、トキの細長い体を折りたたんでコンパクトにするとミイラは三角形になるからだ。

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この壺のひとつひとつにトキが入っていたというわけで、壺の数だけミイラがあったことになる。
※ただし、以下のように中身を雑にすり替えた偽ミイラもあった。

見た目はイビス! 中身はネズミ! その名も古代エジプト動物ミイラ!!
https://55096962.seesaa.net/article/201711article_14.html


これらのミイラは、奉納用の品として末期王朝時代に商業的に売られていたものだ。つまりは神殿で売ってる「お守り」とか「寄進物」とかの類い。流れ作業で作って積み上げて1ついくらで売り捌くような商業ラインがあったのだと考えられる。

しかし、捕まえてきた野鳥を加工するのはミイラ工房でやればいいとしても、養殖となると全く別の技術だ。トキのエサは湿地帯に住むドジョウやタニシなどの小さな生き物。これを毎日捕まえてくる労働力を考えると、到底、大規模な養殖は無理だと思う。
トキは渡り鳥で一定の季節になるとナイルデルタに集まってくる。川沿いの緑地帯以外は砂漠なので、狭い範囲に集まっている状態だ。罠でもかけてとらえるのは、そう難しくはない。飼育するより捕獲するほうが、はるかに安上がりなのだ。

…というわけなので、数からしても、やはりサッカラの大量のトキのミイラは「天然もの」だろう。さすがに犬や猫は違うだろうが、ハヤブサなど他の野鳥類も、捕獲でまかなっていたんじゃないかなと思う次第。