内容がコメントに困るやつ。オランダで行われたQRPs(問題のある研究慣習)の調査結果

去年の論文だが、なんか検索に引っかかってきたのでちょっと読んでいた。
オランダで行われた、「あらゆるジャンルの研究で、各ポジションの人たちが過去三年間にどの程度、不適切な行動(軽微なものも含む)を見逃してきたか」という内容の調査。厳密に言うと「研究不正にかすった割合」くらいのニュアンスかもしれないが、場合によってはだいぶやばいのでは。って感じ。

Prevalence of questionable research practices, research misconduct and their potential explanatory factors: A survey among academic researchers in The Netherlands
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0263023#pone.0263023.ref024

この研究では11の指標が使われているが、やっちゃってる人の割合が多かったのは以下の5つになる。※直訳
この5つを読めば、ここで言われている「QRP」の意味もなんとなく分かるのではないだろうか。

QRP1 設備や技能、専門知識への配慮が不十分
QRP2 後輩の監督や指導が不十分
QRP7 研究過程のメモが不十分
QRP9 有効な否定的研究を論文として投稿しない、あるいは再投稿する
QRP10 論文に研究の欠点や限界を十分に記載しない

QRP7などは科学論文でやられるとマズいどころか、ほぼ捏造論文が出来ちゃう気がするのだが、「always」になっちゃってる人たちは大丈夫なのだろうか…。


前提なのだが、欧米(EU文化圏+北アメリカ)は日本以上のエビデンス至上主義社会である。
本を出版するとか、論文が査読に通って雑誌などに掲載されるとかした本数で雇用や学位が決まる。ナアナアでなんとなーく椅子に座り続けられるわけではない。
すべてのジャンルでそうかは分からないが、多くのジャンルにおいて、いい論文を1本出した人より、そこそこの論文を4-5本出した人のほうが評価が高くなる、とか、主流になっている人気研究ほど評価される、みたいな風潮が見受けられる。競争が加熱しすぎている可能性がある。

論文数で日本が負けてる! と騒ぐメディアはいるものの、それは他の国のようら、学者が職を得るために必死で論文を量産しないからというのもあるのでは、と思っている。
この研究は結論として「以前の調査時より不正の兆候が強まっている」となっている。
それは、推測に書かれているように研究倫理が厳しくなって引っかかる事例が増えたせいかもしれないが、競争社会で論文を出しまくるために「少しくらいいいだろう」と倫理観が崩壊しかかっている可能性もあるのだ。


で、調査結果のグラフ。
それぞれのQRP番号がどういう内容に結びつくかと、細かい数値は二枚目の表のほうにある。
下線を入れた5つが、冒頭に挙げた、やっちゃってる人の割合が高めのやつだ。

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中でも「論文に研究の欠点や限界を十分に記載しない」は、実際にいろんなジャンルの論文をザッピングしてるだけでも「ですよね…」って思うくらいに頻度が高い。この研究でそこまでデカいことは言えないんじゃない? とか、"もしかしたら"の推論ばかりなのでこれだけで言い切れなくない? とか。

例えば、最近読んだ論文だとこのへんとか。


ツタンカーメンの短剣の製法と起源を特定!というニュース→いつものツッコミ満載のやつです。
https://55096962.seesaa.net/article/202202article_14.html

フン族の民族大移動には平原の干ばつが関係していたか? 疑問はあるが一説としてはアリかも
https://55096962.seesaa.net/article/495218941.html

→どちらも、「この結果だけで言い切れんし、そこまでストーリー作れんだろ…」って突っ込んだやつ。


abstractやconclusionの部分を盛ってる論文はなんかもう見慣れちゃったので自分も麻痺してたけど、本来こんな特盛りにして出すもんじゃないよな…。人目につかなきゃ意味ないとか、読まれなきゃ論文出してもしょうがないとかがあるんだろうけどさ。

あと、この調査、アカデミー内での地位によっても比較しているのだが、「ポスドクや准教授は出版や成果を出すことへの圧力が強い」とかの結果も出ていて、やっぱりそうなんだなという感じ。
若い研究者ほど不適切な行為をやってしまいがち、というのも。

あと人文学者についての言及が面白かった、他のジャンルとくらべて組織的な公正や仲間内での規範が甘いという。人文学者だけ別の倫理で動いているかもしれない…? 日本でも人文学者が独特のロジックでSNS上で内ゲバをやらかして人糞学者とか揶揄されていたけど、もしかしてあの独特の雰囲気、他の国でも同じ傾向だったりするんだろうか。

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今回は、オランダ1カ国の話ではあるのだが、何か色々と考えさせられる内容だった。
というか発覚していない捏造やグレーゾーンで出された論文って、実は結構あるんだろうな…って気持ちになってしまった。
これ日本でもやってみたら面白そうだけど、結果がちょっと怖くもある。