古代エジプト版「定礎」、建物を建てる際の儀式と竣工時の儀式について

古代エジプトでは、重要な建物を建てる前に執り行われる一連の儀式、「Foundation Ceremony」と呼ばれるものが存在した。
これは、基盤となる部分に遺物を埋め込む「Foundation deposits」(基礎埋蔵品)を伴う儀式になる。埋蔵品は、建築道具のミニチュアや儀礼的な壺などが多い。
たとえばこういう↓感じの品だが、博物館などで見たことある人も多いのではないだろうか。 リンク

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この埋蔵の習慣は古代エジプト3000年の間ずっと受け継がれており、なんと先王朝時代からプトレマイオス朝まで事例が見つかっている。
有名な「ナルメル王のパレット」なども神殿らしき建造物の中心部に埋められていたものなので、おそらくこの儀式で使われた埋蔵品になる。貴重なものや呪術めいたものを使うことが多い。そしてこれが、建造物の時代や目的を明らかにすることの出来る、一級品の考古学資料になっている。

ただし、時代ごとに品の傾向は違っている。一覧はこのあたりとかこのあたりを参考に。
おそらく儀式の細かい手順も時代ごとに違ってはいたのだろうが、「建物を立てる前に建築の女神セシャトの加護を求める」とか「竣工後にも清めの儀式を行う」といった大まかな部分は時代を通して行われていたと考えられている。

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過去、ピラミッドやアブ・シンベル神殿建造に関するドキュメンタリー番組の再現VTRで、ヒョウ皮の神官服を着た人が建設予定地で儀式をしているシーンが出てきたが、あれは実際に儀式が行われただろう確信があるからであって、話を盛っているわけではない。
ハトシェプスト女王の葬祭殿や個人の墓など種別を問わずこの儀式で埋蔵された品が出てくるので、永遠を願う重要な建造物であれば、基本的に毎回この儀式は執り行われたのかもしれない。

してみると、日本でいう「定礎」の風習とよく似ているなと思う。
ビルを建てた際に埋め込まれるあのプレートの裏側には、ビル建造当時の思い出などをしまった定礎箱が置かれることも多いという。それもいつか、一級品の考古学資料となって博物館に飾られる日が、来るのかもしれない。